【前回の記事を読む】目玉焼きの黄身に、吸い終えた煙草を押しつける婦人…ヒッチコックはこの一瞬の動作で、彼女の“本性”を描いていて…

四、鉢肴

ビリー・ワイルダー監督の作品で印象に残るのはやはりマリリン・モンローだろう。揺れに揺れる寝台列車の中、彼女が作るのが、カクテルの女王と呼ばれるマンハッタン。ライ・ウイスキーにビタース、そしてベルモット。モンローのキュートさと可憐さが、何時までも印象に残る傑作だ。

それとは反し、思いを寄せる女性が、他の男性と逢引しているシークエンスがあった。男はバーで一人哀しく、女性を待つのだが、マティーニに刺さったオリーブの串が、どんどん増えていくことで、時間の経過を表現していた。この夜のジンは、さぞ効いた事だろう。

マティーニと言えばジェームズ・ボンド、もっとも彼はウオッカ・マティーニだ。そして、女性を抱擁しながら、ドン・ペリニヨンの冷え具合を確認していたっけ。痺れたのは、キャビアを頬張り、

「うん、カスピ海だ」

と呟いていた。

ウィリアム・フリードキン監督の警察物では、ギャングが暖かい部屋で豪奢なフレンチを優雅に食べているのに、張り込みの刑事は冷えたピザパイを腹に詰め込んでいた。

最近流行りのアメコミ映画でも、北極の氷でオン・ザ・ロックスを賞味する場面があり、室内に掛けられているのが、南海のタヒチをモチーフにした、ゴーギャンの絵なのだから、そのセンスの良さには敵わない。

ダスティン・ホフマンが、ニューヨークの片隅で暮らす映画で、病身の彼が求めたのが、フロリダの陽光とココナッツ・ミルクで、悲しい演出には涙が止まらなかった。

数多い西部劇の定番料理ならば、ポーク・アンド・ビーンズだ。豚バラ肉と豆とトマトを煮込んだ素朴なものだが、野外で食べると趣がある。

うん、何だか今宵は、映画に因んだ酒と食事が味わいたくなった。カクテルは、まずはゴッドファーザー。これは、スコッチウイスキーとリキュールのアマレットだ。

そしてフレンチ・コネクション。これは、コニャックとアマレットだ。どちらも、アーモンドの甘くほろ苦い余韻が、何時までも口中に残る。

〆は、マリリンの愛したマンハッタン。つまみはキューバン・サンドイッチだ。これは、パンにバターを塗り、サンドイッチ・プレスで圧をかけながら焼き上げる。何とも言えず香ばしい。中身は、ロースト・ポークにピクルス、そして熱々の溶けたチーズ。よし、半蔵門線に乗って、渋谷に出るか。