しばらくすると視界の先に白亜の建物が見えた。私はそれが目指している灯台だとわかった。灯台の周りには空と海と砂浜と影しかなかった。視界を遮るものは何もなく、カモメさえ灯台を避けるように飛んでいた。頂上には展望台があって、ガラスが太陽の光で輝いていた。夜になれば、海を照らす光が月よりも明るく光るのだろう。灯台は長い年月変わることのない姿で海を見守っていた。

駐車場に車を停めた後、私たちは灯台の傍の砂浜に下りた。周りを波で削られた黒く巨大な岩が覆っていた。時折、見たことのない生き物が岩の隙間から顔を出して私たちを見つめていた。

二人でゆっくり砂浜を歩いた。人の姿はなかった。私はあの人の体に密着した。そして、どちらからともなく手を繋いだ。風でワンピースがめくれた。カモメが旋回しながら鳴いていた。さっきよりも太陽が傾き、日差しが弱くなっていた。私たちの影は時折重なりながら東に向かって細長く伸びていた。

しばらく歩くと、岩場の上に白い椅子が置かれているのを見つけた。あの人が「登る?」と聞いたので、私は頷いた。岩は水で滑りやすくなっていたが、あの人が探した足場の後を、私も追いかけた。バランスを崩しそうになると、すぐにあの人の手が支えてくれた。

岩場の上からは打ち寄せる波が小さく見えた。白い椅子は潮風のせいでところどころ錆びついていた。私が座ろうとすると、あの人は「待って」と言ってハンカチを敷いた。私はお礼を言ってからその上に腰を下ろした。

潮風の冷たさがあの人の体温をより温かく感じさせた。私たちは黙って同じ方向を見つめた。視界におさまりきらない海が視界の外にまで広がっていた。私たちは同じものを見ていた。同じ音を聞き、同じ風を感じていた。世界に私たちだけが存在しているようだった。海も太陽も空も私たちだけのものだった。

幸せという言葉が陳腐に思えるほど私は満たされていた。いつまでもこの時間が続けばいいと思った。終わりなんか来なければいいと。今の状態が完璧すぎてそこから何か一つでも失いたくなかった。逆に今さえあれば何も欲しくなかった。

太陽が傾き、海の色は青からオレンジ色に変わり始めた。風は冷たさを増し、私たちの間をすり抜けていった。カモメの鳴き声はいつの間にか聞こえなくなった。すでに今は失われはじめていた。砕け散る波の音に忍びよる夜の足音が混じっていた。

それでも私はあの人が何か言うまで動かなかった。もしあの人が何も言わなかったら、いつまででもいただろう。もちろん、そうならないことはわかっていたが。

「そろそろ帰ろっか」

終わりを告げるあの人の声は風でかき消された。私は聞こえないふりをした。でも、あの人は聞こえているのを知っていた。

「行こう。また体冷えちゃうよ」

あの人は私の手を軽く引っ張った。私はまだ海を見ていた。すでに輝きを失い、闇に覆われはじめていた海を。それはせめてもの抵抗だった。

「風邪ひくよ」

私はもう聞こえない振りはできなかった。あの人がもう一度手を引くと、ようやく頷いた。