五月一日(木)

ケージの前のベッドには、かつて猫さんだった骸が横たわっている。

目を閉じ、まるで眠っているかのように。手でそっと触れると、生きているようにフワフワした毛の触感が伝わってくる。その下には、ロックアイスが袋ごと入っている。遺体を腐らせない様大量に購入しておいたのだ。

尿毒症の臭いは体からすっかり消えて、昔の無臭の猫さんが戻って来た。死の直前に放った野生の獣のような臭いは、尿毒症特有の口臭だったのだろう。

ペット葬儀社の検索と荼毘に付す手続きは妻が代わりにやってくれて助かった。

火葬は明日に決まった。この日は仕事があるのだ。だが、仕事に行く気になれない。いつまでも猫さんの傍にいたいという思いが強いのだ。だが、行かなければ。私は生きていた時の様に「行ってくるよ」と声をかける。すると、どう否定しても猫さんの耳や腹が動いたように錯覚してしまう。

午前の仕事の後、家にいったん帰る前に百貨店に立ち寄る。かかりつけの獣医師への挨拶をしなければ。チョコレート屋さんの店員と、のし紙の相談をしているうちに涙が溢れる。昨日は、いつかテレビで見た「号泣会見」をした議員よりも泣いたのに。

チョコレートを買って帰宅し、二件目の仕事へ。昨日の事を思い出す。猫さんは小さな奇跡を起こしていたのではと思う。午前、息子と幼稚園に居る間、猫さんは持ちこたえてくれて、私と二人きりの午後、息を引き取った。彼女は私の運命の猫で、私が飼う事を決めたから、私と二人でお別れをしたかったのかな?

だとしたら、私は幸せ者だ。午後の仕事の後、動物病院へ行く。今行かないと、二度と行けない気がしたから。

獣医師は、丁寧に言葉をかけてくれた。妻と二人で号泣した。声を思い切りあげて泣いた。この病院は猫さんの思い出に溢れている。

さよなら、ありがとうございました。

もう二度と会う事はないでしょう。お元気で、先生。

夜、動かぬ猫さんに、触れる。体は硬直していて冷たいが、前脚は柔らかい。明日にはこの抜け殻さえ失われるのだ。私は、それに耐えられるだろうか?

次回更新は10月11日(日)、11時の予定です。

 

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