【前回記事を読む】ちゅーるもミルクも拒んだ猫さん。倒れる猫さんを前に、涙が膝へ落ちる…妻が気づいた舌の色は、もうピンクではなくなっていて…
悲しみの底で見つけたもの~猫さんが生きた八十九日間の記録
四月二十九日(火)
尿が出ていない状態で点滴するか迷う。死は、間近だろうが、腎臓が機能しないで尿毒症で死ぬのか、水を入れすぎて心不全で死ぬのか、分からない。水分は足りないのか、入れ過ぎなのか? はっきりしない。心音と肺の音を確認する。心不全に特有のⅢ音は聞こえず、肺に水が溜まっている音も聞こえない。だが、判断材料が少ない中で、点滴していいのか? どうしよう?
結局、心音と肺の音を信じる事にして、60ml点滴した。その後おしっこを漏らしたのは朗報だった。乏尿かもしれないが、それよりひどい無尿ではなさそうだ。少量ならミルクも飲めた。
この日は飲水70mlに点滴180mlの合計250mlの水分摂取。栄養は30キロカロリー。排尿四回に嘔吐二回だった。体温は猫さんにしては低い37・7℃だった。この日も猫さんは乗り切ってくれたのだ。
四月三十日(水)
この日の朝も、ケージから出すと、風呂場に行きたがった。風呂場で伏せている。
点滴を早めにしようと考えた。だが、妻が反対した。尿が出ていないから不安だというのだ。それは理解できるが、水分が摂れていないと危険だ。だが、尿が出ていない状態で点滴を入れ過ぎると心不全のリスクがある。どうしたらいいのか迷い、結局、夜まで待つ事にした。
この日の午前中、息子の幼稚園で「パパと遊ぶ日」があった。瀕死の猫さんを見ていると、とても行く気になれないが、猫さんにとって誕生日や桜が最後であるように、年長の息子にとって園でのこのイベントは最後なのだ。私が行かないと息子はがっかりするだろう。そう思い、猫さんに心を残しながらも、家を出た。
遅れて園庭に着いた私を、息子は「パパが来た!」と満面の笑みで迎えてくれた。きっと寂しかっただろう。ただでさえ、猫さんにかかりきりだったのに、こういったイベントさえもキャンセルするところだった。
ベンチに座って顔を上げると、水色の空が高く澄み渡っていて、空気は温かだった。ああ、彼女が死ぬには丁度いい日だ。あの空を猫さんの魂が何物にも邪魔されずに昇って行くイメージが湧いた。お迎えが来るとしたら、きっと今日だ。今日がその日なのだ。
昼に帰宅した。妻がカリカリおやつを少し食べたと報告する。嘔吐は無かったようだ。だが、猫さんは吐くきっかけが無くても、いきなり横倒しになる。ミルクは僅かに口にする。ケージ前に昨日買ったベッドを置き、そこに戻してやるが、もう自分で姿勢を変える事もできない。
妻が息子を連れて習い事に出かける。急変時には連絡しない方が良いかと尋ねると、その時は習い事を中止して戻るから電話してと言う。妻とはしゃぐ息子が出て行くと、ぐったりと横たわっている猫さんと二人きりの寂とした空間になった。