高かった太陽がもう降りてきていた。窓からオレンジ色に濃くなった光が、ケージ前のベッドで虚ろな目をして休む猫さんを照らしていた。妻の聴診器で心臓の音を聴く。心拍は140だった。人間と違って数えにくいのでリズムで推測する。少し遅くなったようだ。時折長い「ウォーン」といった哀調を帯びた鳴き声を発する。

ミルクを小分けにし、シリンジでちょっとずつ飲ませてみる。ようやく12mlほど飲んでくれた。これで、ようやく12キロカロリー。排尿はこの日たったの一回だ。

ベッドの前に胡坐をかいて座り、心の中で、何十回、いや何百回も繰り返したお別れを告げる。助けてあげられなくてごめんね。来世があるのならまた会おうね。

彼女はこちらを見ているが、目の焦点は合っていなかった。しかし、前脚の肉球を軽く触れると、優しく握り返してくれた、猫なのに。その前脚を握ったまま一方的に約束を押しつける。来世で会ったら、次は猫さんが人間になって、猫に生まれ変わった私を飼ってね。でも、多頭飼いは嫌だよ。猫さんはきっと美人だろうけど、変な男に引っかからないでね。家にちゃんと帰ってきてね。夢に出てきてね。

ミルクを飲まないかと、シリンジを出してみたが口を開けなかった。仕方なく指で口元や歯茎にミルクを塗るが、舌を出さない。もう駄目なんだ。私はお別れの時がいよいよ迫ってきたと感じる。

時が止まったように長く感じる。片手で反応のない猫さんを触りながら、日課の読書をする。この後、日課の執筆や読書をする時間も活力も吹き飛ぶ事が分かっていたから。だが、目は活字の上を滑るばかり。「猫さんを言い訳にして、するべき事をしない」のは避けようと、自分に言い聞かせる。これは、猫さんの予後が見えてから自分に誓った事だった。

次の本を取りに部屋に行った時、「カタン」と皿が落ちる音がした。飲みやすいよう、猫さんの頭の高さに設置してあったお水の皿が倒れたのだ。飲みたかったのだろうか? だが、こぼれた水を拭いて皿を頭の所に設置し直しても飲む気配がない。

十五時四十五分頃、長く「ウミャーオ」と鳴いて、立ち上がって前脚をかき、ケージの方へ向かった。しかし、前脚は空回りをして体重を支えられず、すぐにどうと倒れ込んだ。ケージの中にトイレがあるから、トイレに行きたかったのかもしれない。

「いいんだよ。ベッドに漏らしても」私は泣きながら、猫さんをベッドに戻してあげた。今度はケージのトイレが目に入らないよう、ケージにお尻を向けるように置いた。

次回更新は10月4日(日)、11時の予定です。

 

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