【前回の記事を読む】「あなたの後ろに小さな女の子がいたわ。胸にRワッペンが」霊の見える女性に告げられた。7年前に亡くした娘の服にも同じRが…

オランダの壺

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「すぐそばにお母さんがいるって思うと嬉しいけど、自分には見えないから寂しくて。幸せと辛さがいっぺんに来た」

麻田には後者しか来ていない。

「『緑さん、本当はわざわざ会いに来てくれたんですか』って聞いたの。そしたら『出張は本当。ただ、仙台の予定が急遽甲府になった』って」

由那に気を遣わせないための方便にも思える。でも、もしそうなら「仙台」を持ち出す必要はない。なら、由那の母が赤道を来させた。つい、そんな想像をしてしまう。

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関東が梅雨に入って一週間。この時期が閑散期になる業界は多い。麻田は連日宴会だ。同世代の不動産屋の集まり、中学時代の同窓会、大学時代のラグビー部など、楽しい酒ではある。ただ、麻田の仲間たちの飲み方はだいたい激しい。麻田は「今月は飲みまくる」と決めた。

由那が「緑さんとランチに行くから一緒に」と誘って来た日、麻田は胃腸をやられ、動けなかった。つぎの週も二日酔いで由那との約束をキャンセルした。

由那には申し訳ないが、もちろん赤道にも申し訳ない。寿司屋に招待されて以来、会っていない。おごられたまま不義理にしている。そのかわりというわけではないが、由那はたまに赤道と食事に行っているらしい。とはいえ、由那はおごってもらっているので、麻田としては、さらに不義理なだけだ。

〈今日、緑さんのオフィスへ寄ったの〉

数日後、由那が電話してきた。麻田は、今日ぐらいはちゃんと由那の話を聞こうと、二日酔いの額を掌で数回叩いた。