【前回の記事を読む】申込書に書かれた年収額は「2億5000万」…女性の名刺にあった社名で検索すると「仏具店」がヒット。クリックすると………
オランダの壺
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「でもね、その頃から、起きているときも人の霊が見え始めたの。亡くなっても大事な人に寄り添う霊は結構いるのよ」
「霊能者になっちゃったんですか?」由那が言った。
「まあ、それは仕事ではないけどね。ただ、魂に関わる仕事をしようと思ったの」
「仏具屋さんですね」麻田は呟き、「でも、お医者さんですよね」
由那も「うん、うん」とうなずいた。
赤道は急に猪口(ちょこ)の日本酒をあおると、
「辞めたの」
「なんでですか」由那がすかさず聞いた。麻田はドキリとし、
「それはいいじゃないか」
麻田も本当は聞きたいが、聞けないだろう。医療過誤だろうか。まさか、何か汚職事件とかだろうか。でも、この人にそんな不名誉なことはありそうにない。
赤道は大きなため息をつき、
「そうね。もう医者はできなかったわ」
大将がしめ鯖の握りを出した。
「赤道さんは霊界をよくご存じですよね」麻田が空気を変えた。
「永年研究しているから。でも、まだわからないことだらけ」
そのあと、由那は赤道のする霊界の話にはまり、ふたりはすっかり意気投合していた。
寿司屋から歩いて六本木通りに出ると、麻田は赤道のためにタクシーを停めた。赤道は乗り込むと、窓を開けて麻田を手招きした。
「もっとそばへ」
麻田は赤道が耳打ちできる距離で中腰になった。
「お寿司屋さんでね、ずっと、あなたのうしろに小さな女の子がいたわ。セーターの胸にRのワッペンがあった。かわいい子よ」
赤道は微笑むと窓を閉め、タクシーが走り出した。
麻田は茫然とタクシーのテールライトを見つめていた。
梅雨を予感させる湿った風が街路樹の葉を揺らした。