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直美さんに留守番を頼み、麻田はカフェの柔らかいソファに体を沈めていた。昨日は寿司屋のあと不整脈が出て体力を奪われた。

あの日――。

七年前のあの日。麻田は三歳の娘を事故で亡くした。

秋晴れの夕方、麻田は後部座席に娘を乗せ、井の頭線の駅のそばの商店街へ妻を迎えに行った。妻は「荷物があるから店まで来て」と言った。麻田は店がわからず、娘に車で待つように伝え、周辺を早足でぐるぐる回っていた。ハザードライトを点けて停めた車までは三十メートルの距離だ。手を振ると、娘はすぐに気づいた。

それが麻田の「誤算」だった。娘を寂しがらせまいとして振った手。娘はそれを「こっちへおいで」と受け取り、ドアを開けて車から降りると笑顔で駆け出した。

左から黒いSUVが来て鈍い音がし、娘が視界から消えた。

その日以来、麻田は悪夢の中で何度も娘を失った。麻田は自責で吐き、妻は狂乱し、ふたりはふた月後に離婚した。

あの日――。 

娘はピンクのセーターを着ていた。麻田が買ってやったばかりの、薄いけど温かいカシミアだ。セーターの胸にはレイラの頭文字Rが付いていた。

「パパ、これなあに」

レイラはRの文字を指で押さえて聞いた。「アールだよ」と教えると、レイラはしばらく指で愛おしそうに撫でていた。

西麻布で、赤道にはレイラが見えたのか。それは魂なのか。

カフェの開いた窓からドボルザークの『新世界より』が聞こえてきた。

近所の小学校は下校の時間だった。