〈乃木坂の国立新美術館のそば〉
広い庭の先に白い建物があった。居室は広く、三十人は働けるスペースだが、中央の長いテーブルに四人しかいない。テーブルと椅子は流木のような、色の落ちた木だ。
赤道の社長室は角部屋で庭の花が見える。やはり流木のようなデスクには水晶やパワーストーンがある。隅に由那の背丈を超えるゴールドの仏像があった。
〈仏像もすごいけど、壁も緑さんらしいの〉
形も言語も異なる賞状らしきものがたくさん掛かっていた。
〈なんですか、って聞いたら、何でもないわって〉
赤道が席を外したとき、執事らしき老人がアイスティーをもってきた。
——これ、賞状ですか。
——感謝状ですね。社長は昔から収入の半分を困っている人へ送ると決めています。そんなにしなきゃいけないのかと思うけど。私には何かの「罪滅ぼし」みたいに見えてしかたないのです。
〈罪滅ぼしって何だろう。ちょっと胸がざわつく感じ〉
そう言うと由那は電話を切った。
罪滅ぼしの意味はわからないが、誰にもやましい部分はあるだろう。赤道だけ特別に重いとは思えない。なのに、「収入の半分」と言われると……。やはり赤道は自分よりだいぶ仏に近いということか。
麻田はしかし、そこまで平穏な赤道がうらやましい。自分はずっと苦悩の中にいる。仏になれるわけもない。そもそも神や仏がいるなら、まずはこのおれを少しくらい救ってくれないものか。
「今月は飲みまくる」
麻田は日々この標語を唱え、実際飲みまくり、疲労の泥の中に沈んでいった。
オフィスに行くと、机のうしろの壁に「健康長寿」のお札が貼ってあった。「社長に死なれたら困るわ」直美さんの言葉だ。
〈最近、なんかおかしいよ〉