「差しつかえがないなら、下着は脱いで、これだけ着てきてほしい。俺はこっちで着替えてるから」

私は彼が差し出した白いパジャマを受け取った。もう一着、ピンク色のほうが彼の手元には残っている。

「ありがとう」

特に何も考えずにお礼を言った。

「俺があんたに頼んで着てもらうんやから、別に礼はいらんのやで」

私はうなずいて、バスルームに向かった。

シルク生地というのかサテン生地というのか、さらさらの布地でできたパジャマである。彼のことだから多分、一旦は洗濯してから手渡してくれているのだろう。

かなり大きいように見えたためサイズのアルファベットを確認すると、Fと書かれている。フリーサイズということか。

頼まれたとおりに下着を脱いで、袖を通してみる。肌触りが心地いい。すべすべしていて初めての感触がして、なんだか自然と笑顔になってしまう。

普段、下着を身に着けずにパジャマを着る習慣なんてないので少しだけ心もとないけれど、恥ずかしいというほどではない。

しかし、どうやら袖がかなり長かった。ズボンのほうも丈が長すぎて、歩くと引きずるようになってしまう。女性用ではなくてメンズのフリーサイズなのだろうか。

もともと彼が手に持っていたパジャマは、白とピンクの二着あるように見えた。実はピンク色のほうがレディースで、彼は私に手渡すほうを間違えたのかもしれない。

「着れたか?」

ドアのむこうから彼の声が聞こえる。

「うん、一応ね」

私は返事をして、内側からドアを開けた。

彼は既に、ピンク色のパジャマを着ていた。模様は私のと同じで、猫のキャラクターの柄を全体にちりばめたようになっている。一見して特に小さすぎる様子はない。

「これ、サイズが間違ってるみたい」

「いや、間違ってないで。両方とも俺が着られるサイズにしておいたから」

言いながら、彼はこちらに背を向けてベッドルームのほうに歩き始める。

「どうして?」

私はパジャマのすそを引きずりながら、彼の後ろについていく。

「あんたに着るのを断られたときのために。それに、大きいほうがかわいいかも、と思って」

しゃべっている間にベッドルームに到着した。

彼はいつの間にか手に持っていたミネラルウォーターを、ベッドサイドのテーブルの上に置く。そのペットボトルには水滴が付着しておらず、冷えていそうには見えなかった。

「冷たい水ではないの?」

「水分補給用やからな。あんまり冷たかったら途中で」

彼はそう言いかけて口を閉じた。

「どうしたの?」

「いや、どうもしない。あんたは、好きな飲み物とかあるんか? ジュースやったら何の果物がいい?」

「うーん、ももとか、ぶどうとかが好きかな」

「ももジュースとぶどうジュースな、次から用意しとくわ」

彼は私のほうを振り返った。

「今夜はそれ、脱がなくてもいいで」

「着たままでいいっていうこと?」

「あんたはいつも、体に自信がないとか言うから」

彼に体を触られると、いつも私は自分の体が自分で気に入らないことが思い起こされて不安になってきて、そのことを口走ってしまう。きっと彼からしたら興ざめに違いない。

気にしなくていいと彼は私のことをなぐさめてくれるけれど、ますます申し訳なくなってくるのが常だった。

「それ着てたら、体形とか体毛とか色々、気にならんかもしれんやろ?」

そうかもしれなかった。

なんとなく少し安心して、ふと思い当たる。

私のほうはパジャマの下に何も着ないという話になっていたけれど、彼はどうなのだろうか。下着を着ているのか、それとも何も着ていないのか。

次回更新は9月20日(日)、22時の予定です。

 

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