「いやー、ほんとすごかったね、芸能界は。泥沼の人間関係だったね。お陰で私肩凝っちゃったわよ」
教3の部屋で筋膜リリースガンで肩をマッサージしながら詩が言った。
「林佳奈は以前から精神科に通院していたようです。どうせ裁判でも責任能力で争われるんでしょうね。
ところで天蓋さん、ひどいじゃないですか。また僕に無茶ぶりして。それで僕に大恥を掻かせておいて、自分がかっこよく事件を解決するなんて。これってパワハラじゃないですか?」
高井良が不満をぶつけた。
「君がどのくらい成長したか確認するためにはああいう形を取らざるを得ないだろう。前にも言ったが、君が一人前にならなければ私は警察を辞められないんだからな」
天蓋はコーヒーを啜りながら答えた。
「分かりましたよ。ところで、すっかり忘れてたんですが、シェイクスピアが教えてくれた鍵って一体何だったんですか?」
「まだ分かってなかったのか。言っただろう。私はクローディアスがハムレット王の耳の孔に毒を入れて殺したというありえない毒殺手段を聞いて『ハムレット』がミステリーだと気づいたと。
つまり、シェイクスピアは毒殺事件においては毒の性質をよく知っていれば真実に辿り着けるということを教えてくれたのだ。
この事件でも青酸カリ中毒で吐血はありえないということさえ知っていればすぐに真実に辿り着けたはずだ」
「くそっ、そんなこと知識としては知っていたのになあ、何で気づかなかったんだろ。せっかく汚名挽回のチャンスだったのに」
「はい、1,000円」
詩が罰金缶を高井良に差し出した。
「え?」
「『汚名挽回』というのは汚名返上と名誉挽回を混同した誤用なの。挽回は元の状態に戻すと言う意味だから、まあ君が元々の汚名に戻ったと言う意味なら正解かもしれないけどね。はい、早く」
高井良は苦虫を噛み潰したような顔で1,000円を払った。
「ところで思い出したんですけど、事件が起こった時、何で天蓋さんは拡声器を持ってたんですか?」
「劇場のような密閉された空間で事故や事件が起きたら群衆はパニックになる。そんな時は拡声器で誘導するのが一番だ。だから私はああいう場所に行く時は必ず持参している。
それにあの時は、もし君がコロネに少しでも触れたらあれで警告するつもりだったのだ」
高井良は開いた口が塞がらなかった。
「嘘でしょ。To be or not to be here――ここに残るべきか、去るべきか、それが僕の問題だ」
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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