最近、先生はルッシュ現代美術館設計コンペの審査委員長を務めたとおっしゃっていました。やっと一等当選者も決定し、予定される五年後のオープンに向けて、このプロジェクトもいよいよ本格的にスタートすることになったようですね。
数日前、ルッシュ会長からお知恵を拝借したい旨の電話が先生に入ったそうです。会長は一等案を見て、建築は間違いなく素晴らしいと確信したようですが、逆に展示コンセプトとの整合性がちょっと不安と思われたのです。
ですから建築に合わせて、展示コンセプトの見直しをしたいと考えて、キュレーターの補強が必要だと判断したとのことです。それで新たに数人の学芸員を選びたいようで、先生に推薦の依頼があったようです。
一人は日本人を選びたいともおっしゃっていて。検討した結果、候補に上がったのが心地顕さん。先生も、俊介さんが心地さんと仲の良いことをご存じで、あなたの意見を聞きたいとおっしゃっています。
それで心地さんへ打診をして頂きたいようです。心地さんともご相談の上、先生に直接ご連絡ください。
俊介さんはロンドンで心地さんとお会いする予定ですと言ってしまいましたがいけませんでしたか? このファックスが届かないといけませんので、ポルトガルのエストリルのホテルにも同じものを送っておきます。
それでは元気で旅をお続けください。
かしこ
宗像俊介様 六月十一日 里見律子]
※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
【登場人物】
宗像 俊介:主人公、写真家、芸術全般に造詣が深い。一九五五年生まれ、46歳
磯原 錬三:世界的に著名な建築家一九二九年生、72歳
心地 顕:ロンドンで活躍する美術評論家、宗像とは大学の同級生、46歳
ピエトロ・フェラーラ:ミステリアスな“緋色を背景にする女の肖像”の絵を26点描き残し夭折したイタリアの天才画家。一九三四年生まれ
アンナ・フェラーラ:ピエトロ・フェラーラーの妻、絵のモデルになった絶世の美人。一九三七年生まれ、64歳
ユーラ・フェラーラ:ピエトロ・フェラーラの娘、7歳の時サルデーニャで亡くなる。一九六三年生まれ
ミッシェル・アンドレ:イギリス美術評論界の長老評論家。一九二七年生まれ、74歳
コジモ・エステ:《エステ画廊》社長、急死した《ロイド財団》会長の親友。一九三一年生まれ、70歳
エドワード・ヴォーン:コジモの親友で《ロイド財団》の会長。一九三〇年生まれ、71歳
エリザベス・ヴォーン:同右娘、グラフィックデザイナー。一九六五年生まれ、36歳
ヴィクトワール・ルッシュ:大財閥の会長、ルッシュ現代美術館の創設者。一九二六年生まれ、75歳
ピーター・オーター:ルッシュ現代美術館設計コンペ一等当選建築家。一九三四年生まれ、67歳
ソフィー・オーター:ピーター・オーターの妻、アイリーンの母。
アイリーン・レガット:ピーター・オーターの娘、ニューヨークの建築家ウィリアム・レガットの妻。38歳
ウィリアム・レガット:ニューヨークでAURを主催する建築家。一九五八年生まれ、43歳
メリー・モーニントン:ナショナルギャラリー美術資料専門委員。一九六六年生まれ、35歳
A・ハウエル:リスボンに住む女流画家
蒼井 哉:本郷の骨董店《蟄居堂》の店主
ミン夫人:ハンブルグに住む大富豪
イーゴール・ソレモフ:競売でフェラーラの絵を落札したバーゼルの謎の美術商