【前回の記事を読む】癌になった妻は「私、悪いことしたのかな」と呟いた…もし、俺が代わってあげれたら——その願いは、叶うことなく……

冬の訪れと卒業式

千恵が病気になる前は、月に一回程度の割合で会社の仲間や知人とゴルフに行っていた。十二月に年末ゴルフの誘いがあった。

「その日は都合があって不参加」

と即答した。用事はなかった。辛そうな顔をしている千恵をおいて、好きなゴルフを楽しめなかったし、楽しみたくなかった。年が明けてからも誘いはあったが、全て断った。ある時から誘いはなくなった。理由は話さなかった。

病気になる前、千恵を誘ってゴルフの練習場に連れていったこともあった。いつでもラウンドに出られるようクラブとシューズも購入した。

「ゴルフに行ってくるよ」

と言えば、反対はしなかったかもしれない。ただ、今はゴルフなどやっている状況ではない。それ以降、ゴルフは封印している。

インターネットでベータカロチンの多い人参ジュースはがんには効能があると見つけた。人参は好きではなかったが無理強いさせ、毎日一リットル以上飲ませた。

千恵は、私の言ったことを信じ、それに従ってくれた。私が言ったことを信じてくれる千恵がいじらしく、病気を完治させるためなら、何でもする覚悟ができていた。

がんと分かった当初、最寄りのスーパーで売っている人参ジュースを飲用していた。ビン底に人参が沈殿し飲みづらいため、千葉県の内陸地にある農協に購入先を変えた。

そこは、高速道路を使い一時間半程かかるところにあった。一回行くと十二ケース、約三百本分を購入し、二カ月に一回程度買いに出かけた。ある時、店員の方から、

「お祭りかイベントでもするんですか?」

と尋ねられた。一家でこれほどの量を飲むとはとても想像できなかったのだろう。一ケース購入する人もそういないようだ。私は、

「家族が多く、全員これが好きで、健康維持のため毎日飲んでいるんです」

と嘘の回答をした。何回も通ったため、店員の方と知り合いにもなった。それでも、妻が、がんを患い、人参ジュースが身体に良いからとは言えなかった。

がんという言葉を口にしたくなかった。本当のことを話したら、それはお気の毒にと思われるだろう。そう思われたくなかった。