【前回の記事を読む】県予選決勝、1-0の場面…フリーキックを任されたのは、キャプテンだった。大学入試も懸かった一蹴は、ゴールを大きく越えて……
Chapter3 ATTACK
翌々日、月曜日の朝になっても胸の痛みはひかず、三十九度を超える熱も出てきた恭平は、掛かりつけの医院にフラフラと泳ぐように出掛けた。
診察とレントゲンの結果、肋骨に三本ヒビが入っていると告げられた。
(やった! 小見出しができた!)
思わずニンマリする恭平に、院長は真剣な表情で追い打ちをかける。
「おい、恭平君。肋骨のヒビは寝とれば治るが、こりゃあ肋膜炎を併発してるぞ」
「はっ、肋膜炎?!」
「うん。一、二年は療養が必要だな」
「えっ、一、二年って言ったって、僕、来年は受験なんですけど……」
「あぁ、受験なんて、まず無理だな。最低一年は静養していないと、取り返しのつかんことになるぞ」
念のための大学病院での診断も同じ結果だった。受験は、もちろん絶望。下手をすると卒業まで危うくなりそうだ。大学病院の病室が満室を理由に、当面の自宅療養を余儀なくされた恭平は、三階の屋根裏部屋には戻らず、二階の一室で悶々とした毎日を送ることになった。
稲穂大学を志望するキャプテンの高宮は、放課後図書館で猛勉強を続けていると言う。
陸王大学志望の大谷は、英語の特訓のために広島大学の講師の下に週四日通い始めた。
不出来な恭平のさらに下位を低迷する工藤さえ、昼休みに参考書を開いているらしい。
だのに恭平は、およそ受験には役立ちそうもない小説ばかり読み耽り、一週間で体重が三キロも増えた。読んだ本の中では、司馬遼太郎の『項羽と劉邦』が面白かった。この本を見舞いに持って来たのは財津で、本にはカバーも包装袋もなく、ページの間には書店の売上整理のためのカードが挟まれていた。
しかも財津は、上・中・下巻を数日の間隔をおいて持参した。最初の上巻では気づかなかった恭平も、二冊目には合点がいった。財津は一切の元手をかけず、見舞いを調達したに違いない。財津らしい厚意に恭平は感激し、余計に興味深く読み通すことができた。
大谷や高宮はもちろん、北山も週に一、二度は顔を見せた。何しろ恭平の家は学校から歩いて十分足らずの所に在るのだから、その気になりさえすれば毎日だって寄れる。にも関わらず、どんなに催促しても佳緒里は一度として見舞いには訪れなかった。
それは恭平を苛立たせ、時には絶望感さえ抱かせたが、一日でも早くベッドから抜け出してやろうというエネルギー源にもなった。