サッカーのプレーにしてもそうだが、恭平には第三のエネルギーといったモノがある。
(何が第一、第二なのかはさておき、ただ語呂が好いから第三なのだ!)
それは『他人の目』だった。どんなに疲れていても、どんなに腹が空いていても、『他人の目』を意識することで、相当の無理が利く。サッカーに関しても、普段の恭平はただの凡庸なプレーヤーに過ぎず、クラスマッチで活躍する素人選手に毛の生えた程度だ。
しかし、大きな試合になればなる程、観衆の数が増えれば増える程、スケールに比例して本人さえも驚くようなプレーを連発することができる。
口の悪い中野監督は恭平を、『意外性だけのプレーヤー』と評する。そして恭平は、それを最大級の賛辞と受け止め、自信に転化している。
そんな訳だから、『他人の目』が『好意ある他人の目』、さらには『佳緒里の目』ともなれば、計り知れぬ力が発揮できるという塩梅だ。
今回がそうだ。恭平は佳緒里に会いたい一心で治療に専念した。療養三週間目くらいからは医者や親の目を盗み、腕立て伏せや腹筋運動まで始める始末で、半分は自棄(やけ)っぱちの逆療法で自分の体を苛めていた。
恭平の名誉のために言えば、決勝戦前夜から卒業式に出席した二月初旬までの三か月余、デジタル時計が〈AM1:00〉を表しても、一度として三階の窓を覗いたりしなかった。
その分、佳緒里との出会いから今日までを微に入り細を穿(うが)ち想い返し、妄想と夢想の限りを尽くして佳緒里への愛慕を深めていった。
*
佳緒里が一年生、恭平が二年生の夏休み明けの放課後。二人が初めて出会った日の情景は今も鮮烈、かつ克明に覚えている。
最終授業の終業チャイムの第一音と同時に、教科書を鞄に放り込み、教室を飛び出す。廊下を全力疾走し、階段を三段跳びに駆け下りながら上着を脱ぐ。クラブ・ハウスに突入した時点では、ズボンのベルトもチャックも外れている。練習着に着替え、スパイクを突っ掛けて無人のグラウンドに立った時、チャイムはまだ鳴っていた。
そんな漫画みたいな記録への挑戦こそ、恭平の日課のひとつだった。
その日もグラウンドに一番乗りした恭平は、軽く屈伸運動しながら小さな石ころを拾ってはスタンドに投げる動作を繰り返した後、ゴールに向かってドリブルを始めた。
ペナルティ・エリア辺りから右足で蹴ったボールは、ゴール・ポスト右側の角に当たり、ゴール・ラインに沿って大きく跳ねた。ボールの転がった先に、竹箒(たけぼうき)を持った掃除当番らしき怒り肩の女生徒が立っていた。
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