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「そろそろ、握りますか」大将が赤道に聞いた。
「そうね。どう」
カウンター奥の赤道は隣の由那に聞いた。
「わーい」由那が小さく拍手すると、赤道は笑い、大将に頷いた。
西麻布の路地にある小さな寿司屋だ。赤道がマンションに無事引っ越したお礼と言って「彼女もご一緒に」と誘ってくれたのだ。
「そういえば、仏具屋さんは長いんですか」麻田が聞いた。
「長いわね。もう三十年以上ね」
「その前は何を」
「さあ、何かしら」
「緑さんなら……」由那は赤道をまじまじと見て、「女優さん」
「ぜんぜん違う」
「ぜんぜんなら……、マグロ漁師」麻田が言った。
「あなた、お寿司しか頭にないでしょう」赤道が笑った。
「わからない、教えて下さい」由那が聞いた。
みんなの視線が赤道に集まった。赤道はため息をつき、
「しょうがないわね。実はね、医者だったの」
「えー、緑さん、すごッ」
「何科ですか」麻田が聞いた。
「外科。救急の」
とたん、麻田の心臓が変な打ち方をした。あの日から緊張すると不整脈が出て息苦しくなる。
「事故で人が運ばれてくるんですよね。怖い……」由那が言った。
「慣れよ、なんでも。しかも、人の体は単に魂の容れ物だから」
「緑さん、かっこいい」そう言うと、由那は麻田の顔を見た。