【前回の記事を読む】家賃72万円、南青山の物件を即決した女性が来店…申込書を確認すると、【年収:25000】思わず単位を疑ったが……
オランダの壺
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左手の沖には海上自衛隊のグレーの護衛艦が圧倒的な威容で進んでいる。雲間から日が漏れ、海面が光った。
「ちなみに、どんな仕事なの」
「年収しか気にしてなかった。二億五千万だったよ」
麻田は確定申告書で年収さえ確認できればいちおう足りる。細かい審査は家主の仕事だ。
「二億五千万か。数字がクリミナルだ」霧谷は笑う。
「何屋さんだろう」
麻田は携帯画面に「株式会社グリーン・イクエイター」と打ち込んだ。現れたホームページの中央に「アーラヤ仏具店」と「本社管理部」のリンクがあった。「アーラヤ仏具店」をクリックすると別画面に飛んだ。青空に雲が浮かび、真ん中に白い文字が現れた。
アーラヤ(梵語でālaya)とは、来世に影響する人の根本意識のことを言います。
——仏具屋かぁ……。そんなに儲かるのかな。
画面の「店舗」をクリックするとまた別画面が開き、本店、そして名古屋、仙台、大阪、札幌、バンコクの店があった。なるほど、手広いのだ。赤道は物が多いから広い家がいると言っていたが、仏具だろうか。だとしたら、ヴィンテージマンションは合うかも知れない。
「あの人がスピリチュアルな理由がわかったよ。仏具屋さんだった」
GPSの縮尺を変えていた霧谷が麻田を振り返り、
「なるほど。アイシー」
剱崎は珍しく波も穏やかで、大きな漁船が六隻、潮目に沿って一列に並んでいた。釣り人を乗せてくる船だ。どの船もアジがよく釣れていた。霧谷はその列の外側にボートを停め、ふたりで三時間ねばってカンパチと真鯛を五匹釣った。午後三時になると潮が止まり、漁船が一斉に帰って行った。
「もうダメだな」
霧谷はホルダーに置いた竿を横目で見た。肌寒くなった麻田はポットの湯でコーヒーを淹れた。遠い雲間から細い光が射し、水平線に近い海を照らしていた。