第Ⅰ部 医療経営戦略
第2章 医療におけるマーケティング戦略
医療の世界にマーケティングが必要な理由
それでは、そもそも医療の世界になぜマーケティングが必要になってきたのでしょうか。
第一に、インターネットの普及による情報の非対称性の解消があります。
情報の非対称性とはいったい何でしょうか?
日本海側の観光地の国道沿いで売っている土産用のカニを買うと、身が全く詰まっていないことがあります。1回の売上の最大化を考えているために、もともと身の詰まっていないカニを高額で売っているわけです。実際にこのような経験をされた方もあるかと思います。
さらにこのケースで面白いのは、業者へ身が詰まっていなかったとクレームの電話をするとてっきり反論するのかと思ったら「はい! はい! すみません。すぐに代金を返金します」ととっても愛想よく返事をしてくることです。
実は売る側は粗悪なカニであることを知っていて、一見の顧客であるし、100人のうち99人が泣き寝入りしてくれればその分が利益になることを知って確信的に行っているのです。まさに情報の非対称性を悪用した商法です。
当然一定の割合でクレームする人がいますが、それは稀で、反論せずに返金すれば表沙汰にもなりませんし、ある顧客に対しては返金して損をしても、他の顧客で儲ければトータルで得をするという計算です。
医療の世界では従来医療者と患者の間には専門的な知識に格差、すなわち情報の非対称性が存在したわけですが、現在のインターネットの普及はその知識の格差をなくし、時には患者の方が医療者より知識が豊富なんてことも珍しくありません。
ネット検索力のある患者さんは自身の病気のことを徹底的に調べます。インターネットではありませんが、患者さんの会で「大阪肝臓友の会」がありますが、友の会だよりを見ると新薬の情報などは国内トップレベルの充実ぶりです。
第二に、医療機関間の競争の激化があります。周囲の医療機関に患者を奪われまいと、医療機関同士で患者の奪い合いが始まっています。今後は地域医療構想で、超急性期あるいは急性期病床は削減されていきますので、この競争はより激化すると予想されます。
医師や看護師などの労働力の確保も医療機関同士で競争になっています。