忌まわしき遺伝子
誰もが、親から引き継いだ遺伝子には、複雑な感情を抱いているものだ。
私はというと、両親の悪いところばかりを引き継いだ。それは、兄弟も一緒で、兄たちを見ていると、やがて自分に降り掛かるであろう災難が予測できた。
まず、歯並びの悪さ、胃腸の弱いところ、脱腸、若い頃は水虫に悩まされ、老いては痔である。
お陰様で、男兄弟の中では、私だけがまだ禿げに侵されていない。しかし、イボ痔は見事に遺伝した。気張る度に頭を出し、出血も伴う。運良く私の場合は痛みを伴わないので、命に関わる病気ではないと、末永く付き合っていく決心をしていた。
そんなある日のこと、職場で直腸癌が話題に上った。早速、インターネットで調べてみると、私の自覚症状に何もかもが当てはまる。
(遺伝性の痔を持っていて、出血はそのせいだと思い込んでいる。細い便が出る。便を出した後も、残っているような感覚が続く……)
読み進めていくにつれ、顔面から血の気が引いていくのが分かった。
これはじっとしている場合ではないと、今からでも診てくれる肛門科を調べ、急いで病院へ向かった。
移動の間や受診が始まるまでの時間は、ネットに出ていた直腸癌の手術の予後が頭を巡った。
(癌の進行度や発生した場所によっては、人工肛門を造設する必要があり……)
優しそうな中年の男性医師は、横になってお尻を突き出している私の肛門に指を入れ、ぐるりと1周させたかと思うとでき物を表に掻き出して言った。
「ただのイボ痔です。お薬出しておきます」
全身から力がスーっと抜けていくのが分かった。