【前回記事を読む】娘の彼氏が挨拶に来る。TVドラマで何度も見た場面だが、いざ自分の番となると落ち着かない。妻は相手方の条件に不満があるようで……
おっさんのシンフォニー
幻のジイジ
隣のマンションに住む新婚の娘から、食事に来ないかと珍しくお誘いがあった。
独身時代に料理をする姿など見たことがなかったので、一体何をご馳走してくれるのか、妻と期待しながら出掛けた。
自分でデザインしたというダイニングテーブルには、幾種類もの料理が所狭しと並んでいる。
夫君も、取り皿を並べたり、お酒の用意をしたり、甲斐甲斐しく働いていた。
やがて食事が始まると、娘が病院に行ってきたと切り出した。
実は、昔から酷い生理不順で、少ない時には半年に一度しか無いという。呑気な妻は、今まで気付かなかったらしい。
婦人科でエコーを撮ってもらったところ、異常があったと写真を見せてくれた。
何と、そこには4週目の小さな小さな物体が写っている。
「お医者さんが、私のことを独身だと勘違いして、小声でどうします? 産みますかって聞くねん」
あまりに唐突な話なので、私たち夫婦はどんな反応をしたらよいのか戸惑ってしまった。とにかく、安定期になるまでは、くれぐれも用心するようにと何度も言い聞かせて、その日は帰った。
もっと、喜んであげれば良かったのだが、暫くは事実を受け止められず放心状態だった。
友人から「やっと、お爺ちゃんやねぇ」と言われて、初めて実感が湧いてきた。私もとうとう人生の新しいステージを迎えるのだ。
しかし、喜びは翌週に幻となった。
悲しむ娘を思うと胸が痛んだが、「若いのだから次があるさ」と、娘にではなく、自分に言い聞かせたのだった。