【前回記事を読む】「お父さん、プロポーズされた!」娘の手には真っ赤な薔薇の花束…どう返信すればよいのか迷っていると、娘から……。

おっさんのシンフォニー

初体験

幾つになっても、人生には初めての経験にぶつかることがある。

この度、めでたく一人娘が結婚することになり、近々彼氏が挨拶に来るという。テレビのドラマでは何度も見た場面だが、いざ自分の番となると、どうしたものか落ち着かない。

妻は、「当日までに何を話すかシミュレーションしておかなくて大丈夫なの?」とか、「本当に許可してしまうの?」とか、心配そうである。

どうも、相手方の条件に不満があるようだ。

当日、私は腕によりを掛け、ご馳走を作って彼氏の登場を待った。

彼氏は、娘からレクチャーを受けていたのだろう。高級芋焼酎と、駅前の人気洋菓子店のショートケーキを持参した。

私たちは、まんまと敵の術中にはまり、たちまち笑顔にさせられた。

最初のハードルはこうして見事に突破された。私が着席を促すと、彼氏は定番の挨拶を始めた。

テレビのドラマで見る光景と瓜ふたつである。妻の方を伺うと、顔を真っ赤にして吹き出しそうになるのを我慢している。

彼氏は緊張のあまり身体をブルブル震わせながらも、最後まで無事にやり遂げた。

「母ちゃん、あない言うてはるけど、どないする?」と、妻の言い分を聞くと

「どうするもこうするも、本人たちがええ言うてるんやからしゃあないやんか」と、何の抵抗もすることなく、嬉しい宴と相成った。