事件前に、具体的に俺は、離婚を考えていた。しかし、実行した場合、凛太が不憫(ふびん)だった。男の子にとって母親の存在は大きい。
母親の不在は、心を深く傷つけることになる。だが母親があの様子では、凛太の成長に悪影響しかないはずだ。
ミサトは何かしらメンタルに問題がある可能性が高いが、自分では病院に行かないだろう。プライドが異常に高いからだ。
悠長(ゆうちょう)なことは言ってられない状況だ。覚悟を決めて、離婚し“子連れ狼”になるしかないか……。そんなことを考えていた矢先だった。
ミサトがバス内で喧嘩をふっかけてきた。バス料金を払えと言ってきたのだ。
俺は現金を持っておらず困惑した。お金はすべてミサトに預けており管理は任せていた。
俺の毎月の小遣いは、1万5千円なり。仕事中の昼食代なども、そこから出していた。
情けないことに好きなことに使えるお金など、ほぼなかった。
給料は少なかったが、しっかり計画すれば、生活できないほどではなかった。嘘がないようにすべて妻に渡していた。妻ミサトが納得いくように管理を任せていた。
だが管理はできていないようだった。
バスの料金は結局ミサトが出した。その後も、イヤミを言われ続けた。
くだらない口論の果てに、
「俺が仕事してるから、生活できてるんじゃないか」
「昨日は、お前はどこに行ってたんだ? 5時くらいに駅前のベンチに座って、電話で誰かと話してただろ。本当に仕事だったのか? 誰に電話してたんだ? 俺は買い物帰りに凛太と見てたぞ」