【前回記事を読む】妻はスマホ、2歳半の息子は寝室。冷たい食事を一人で済ませた夜、俺の日常は壊れた

蟲(むし)

2日前、バス内で妻ミサトと口論になった。

夫婦で携帯電話を変えるため、出かけようと妻から誘いがあったのだ。常日頃まったく外出したがらないのに、変だなとは思った。

だが妻の気まぐれはいつものことで、否定したり拒否すると、すぐに機嫌を損ね貴重な休日が台なしになる。

下手をすると1週間以上も機嫌が悪い。俺に選択の余地はなかった。

思えば、完全に服従させられていた。夫婦関係はすでに破綻(はたん)していた。

凛太が生まれて、半年経った頃から、妻ミサトの様子は豹変した。もともとミサトは、エキセントリックかつヒステリックな女だった。

出会ったのは5年前。変わった女だと思ったが、俺と似た者同士だったのだ。気が合い付き合うようになった。

付き合い始めてしばらくは、尽くしてくれるようなところがあった。感情の起伏が激しく、不安定な女だった。周囲に迷惑をかけることもしばしばあった。

紆余曲折(うよきょくせつ)はあったものの、付き合って2年後に結婚した。過不足ない式も挙げた。結婚から2年後に、凛太が生まれた。

それから、俺が知っている妻ではなくなっていた。

“産後うつ”かと思い調べたが、それにも該当しないようだった。まるで、まったく知らない人と急に生活を始めたような感覚があった。

何かにつけ、怒気(どき)を放ち、俺のやることすべてに苦言を呈するようになっていた。暴力もこの頃から頻繁に振るうようになった。

そんな日々の中、子育てと仕事だけの生活に、俺自身も疲れを蓄積し、妻に対する愛情がなくなっていった。

妻に干渉すること自体を避けるようになった。精神的にも、肉体的にも。妻も俺に対する愛情はなかった。

そのくせ、親族の前で、「私は2人目の子どもが欲しいの!」などと、急に思い出したように言いだす。当時は、まったく意味がわからなかった。

要するにミサトとしては、

“2人目の子どもを産みたいが、夫は経済力がない。セックスもない。自分は被害者である”

という遠回しなパフォーマンスであるということに気づいたのは、すべてが破綻(はたん)した後だった。