【前回記事を読む】ここを出て息子に会うんだ――最愛の息子に会えない現実に何度も心が壊れかけ……それでも諦めきれなかった
最後の晩餐(ばんさん)
その間に海岸はその表情を、刻一刻と変化させていった。マリファナに火を点ける前とは、別の世界だ。すごいスピードだ。いや俺が遅くなったのか。
没する間際の、強烈な朱さの夕陽が、水平線と溶け合い、藍色の波が次第に黒みを増していった。沖合の島の灯りや、船の灯りが水面に反射し、オパールに似た色とりどりの粒子状で明滅していた。
黒く染まった波は、コールタールのような重いうねりを伴って、ゆっくりとゆっくりと上下していた。俺の呼吸も、その動きに同調していく。
大きなうねりのすぐ下には、クジラだろうか。巨大な海の怪物がいるような気配を感じる。フジツボがついた大きな背びれや、尾ひれが、一瞬かいま見れたような気がする。
何かの予兆を含んだ萌芽(ほうが)が、実体を成して、確実にそこに潜んでいる。黒い海の底に。
怪物は、その大きな口を、無数に並んだ鋭い牙を剥き出すときを、淡々と静かに狙っている。穏やかではあるが、厭(いや)な予兆を感じさせる海だった。
この世界の水面下では、自分がまいた種によって、陰と陽の2つの萌芽が確実に育っている。それがいつしか結実(けつじつ)し、悪魔か天使になり、種をまいた人間に還元されるべく、じっと潜んでいるのだ。そんなことを感じたが、どうでもいいと思った。なったらなった時だ。大事なのは今だ。それまでは好きなようにやるさ。
視線を移すと、対岸の小さな島に民家らしき明かりが見える。あの光の下にも、家があり、家族がいて、暖かい光の中、だんらんをしているのだろうか。
港からすぐ近くの、木造の一軒家で漁業を生業にする父親と、母親、祖父母も一緒に暮らしている。長男、長女と、3歳くらいの次男。7人家族。
その日獲れた魚と、食事を家族で取り囲んで、その日に学校であった出来事、Aちゃんが、こんなことしただの、先生がどうだったのと、他愛もない話をして笑っているのだろうか。
日本酒に合う魚の刺身に、舌鼓(したつづみ)を打ち、家族の笑顔と、満腹と満足を抱えて清潔で快適な布団に入る。先祖に感謝し、
「明日も、良い日でありますように」と願う。