蟲(むし)

この日は、虫の知らせか、ずっと気持ちがフワフワとしていた。なんとなく嫌な予感がしていた。障がい者施設の集団殺傷事件があった日だった。犯人は20代で、マリファナを常習していたという報道もあった。嫌な兆候(ちょうこう)は続いた。

職場の先輩が、ニュースを見ていた。何かの事件についてのニュースだった。裁判中のイラストを見ていた先輩が

「なんか、お前みたいだな」

と軽く言ったのだ。とても何気ない軽いからかい文句だった。俺は軽く鼻先で笑い、

「ちょっと、勘弁してくださいよ」

おどけて取り繕(つくろ)ったが、内心は、核心をつかれた感じがして居心地が悪かった。この先輩は、普段は寡黙(かもく)でぼうっとしているように見えるが、勘は鋭い。

“現実は小説より奇なり”とはよく言ったものだ。先輩が暗示した通り、その日の夜、俺は逮捕されることになる。

 

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