「よかった。……まだ、私のパンケーキを食べてもらう約束が守れてないですから」
目頭が熱くなるのを感じた。彼女は僕の背中で、クククと笑い声を漏らした。
「高校に入ったら、普通の女の子みたいにアルバイトをしたり、マックでお喋りしたりしたい。……一番は、やっぱりお祭りに行きたいです。平さんが、生きることは楽しいんだって教えてくれたから。本当にありがとう」
僕は言葉にならず、ただ深く首を縦に振った。笑っている彼女とは裏腹に、僕の心は別れの予感に揺れている。
「だから、大きくなったら……お世話になりましたので、世界で一番美味しいパンケーキを作ってあげます」
「……ありがとう。楽しみにしてるよ」
たとえこの約束が守られない日が来たとしても、彼女が「約束しよう」としてくれたことが、たまらなく。家庭教師をして心からよかったと確信した。
「この乗り物、2人乗りしていいんですか? 罰金が確か一万円くらいしたはずじゃ……」
「しーっ、静かに」
僕が指を口元に当てると、クククと彼女はいたずらっぽく笑った。
「私の作るパンケーキは一万円の価値がありますから、それでチャラにしてください」
「……わかった」
やがて原付は、かつて僕が屋台を引いていた思い出の場所に辿り着いた。
次回更新は9月15日(火)、20時の予定です。
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