『大切な人を幸せにしてあげられる人になれますように』
今の僕は、誰かを幸せにできているだろうか。
母はかつて「大切な人を幸せにするためにも、自分も幸せでなければいけない」と言った。お金はないけれど、僕は友人や先輩、そして恩師に恵まれている。
「御幸くんは人から慕われ、責任感が強く、努力できる人だ。大学へ行って、広い世界を見てほしい」
高校の担任の先生がそう言って背中を押し、奨学金のサポートまでしてくれたからこそ今の僕の『幸せ』がある。
たくさんの人からもらった幸せを僕は誰かに返せているだろうか。 波瑠と一緒にいたわずかな時間は、僕に多くのことを教えてくれた。
東屋さんがなぜ、あえて僕に彼女を託したのか。その真意も彼女と向き合う中でようやく理解できた。
――僕にしかできない、僕がやらなくてはいけないことがある。
契約が終われば、もう彼女とは会えなくなるだろう。
だからこそ、僕は持てるものすべてを使って『それ』を用意した。
彼女の夢を守り、本当の意味で彼女をこの冷たい檻から解き放つための、僕なりの『お祝い』を。
推薦入試の終了時刻、僕は使い古した原付を停めて彼女を待った。
「約束、守りに来たよ」
ヘルメットを脱いで声をかけると、周囲の視線が集まるのがわかった。波瑠は一瞬驚いたように目を見開き、それからクククと笑った。
「……はい。約束、守られに来ました」
手渡した予備のヘルメットを被り、彼女は僕の背中にしがみついた。原付が走り出すと、背中越しに彼女の体温が伝わってくる。
「試験は、真面目に受けてきましたよ」
「そうか」
合格すれば、もう会うことはなくなる。沈んでいく心を悟られないよう僕は前だけを向いた。
「平さん……また、会ってくれますか?」
ヘルメット越しに届いた掠れた声に、胸が締め付けられる。
「うん、約束しよう。」