【前回記事を読む】ひゅっ、と風を切る音と同時に右腕に鈍い痛みが…相手の蹴りに驚愕し、圧倒的不利。それならば、と選んだ手段は…
第2章 クレイジー ナイト
第2節 神代文字の石碑
速水万葉(かずは)は息を切らして赤山神社の階段を駆け上った。中学の時に長距離走の選抜に選ばれた彼女でも、その段数はきつい。
「またお兄ちゃんが喧嘩してる」そんな噂を聞いてここまできた。
神社の広場にたどり着くと、木のベンチからシャカシャカと音がする──兄のカセットプレーヤーだ。
万葉は怒りを抑えた。
「私のお小遣い全部使って買ったカセットプレーヤーを、ベンチに放置!? ……何考えてるの、バカ兄貴!」
そう言うと、カセットプレーヤーを握りしめて、万葉は兄の影を追って森の中へと入って行った。
裏山の林は、クオンにとって有利な地形だ。障害物が多ければ、エノキドの蹴りの射線は制限され、クオンの機動力が活きる。
「待ちやがれ!」と後ろからエノキドが追ってくる。
クオンは「神代文字の碑」と書かれた看板を横目に通り過ぎ、その碑の前で立ち止まる。木々に囲まれたこの空間なら、連撃を封じられる。
クオンは樹木を盾にしながらポジションを取る。追いかけてきたエノキドが飛び込んできた。
素早い蹴りが迫る。
クオンは木を背にして身をかわし、カウンターを狙う。
(読めてきた……!)
クオンはエノキドの軸足に狙いを定め、円を描くように動きながら攻防を両立させる。
一方のエノキドも、拳で牽制しながら鋭い蹴りを緩めない。
“一撃必殺”の気配が漂う。その緊張感が極限に達したとき、ついに均衡が破れた。
木々に制限されたエノキドの動きを、クオンの目がようやく捉え始めたのだった。
エノキドが放つハイキック。枯れ葉が舞う。
──クオンはそれを読み、エノキドの右足に拳を打ち込んだ。
バランスを崩したエノキドは、後ろの「神代文字の碑」に背中を打ち付けた。
(これで終わりだ……!)と渾身のストレートを、エノキドの顔面めがけて繰り出す。