【前回記事を読む】第2次大戦末期、南極ピラミッド調査中に起きた緊急事態。肉塊と化した曹長、天井に貼り付いたままの少尉…唯一生き残った男は——
第2章 クレイジー ナイト
第1節 赤山神社の決闘
1985年。群馬県、前橋市。クオンは、妹から誕生日プレゼントでもらった、カセットプレーヤーWM40で、ラウドネスの『THUNDER IN THE EAST』を聴いていた。
今年の冬に発売されたばかりのアルバム。カセットテープ版でようやく手に入れた宝物だ。お気に入りはミドルテンポの名曲『WE COULD BE TOGETHER』。ボリュームは常に最大。音が外にシャカシャカと漏れていようが気にしない。
赤山神社の長い階段を上り、境内の木のベンチに腰を下ろす。フェードアウトしていく曲に合わせて、彼の気持ちも静かに高ぶっていく。
───ユラッ。階段の下で、金髪が揺れた。
「来たな、エノキド……」と呟いた瞬間、アドレナリンが一気に噴き出す。クオンはイヤホンを外し、カセットプレーヤーをそのベンチに置いた。
階段をゆっくりと上がってくるのは、両手をポケットに突っ込んだままに、白い長ラン、金髪の男───エノキド。
大人だろうが子どもだろうが誰もが避けて通る、“昭和の不良”そのものだ。尖った革靴は明らかに喧嘩用。並のチンピラなら目を合わせることもできないだろう。
クオンは座ったまま、目の前に立ち止まったエノキドを睨みつける。これは宣戦布告、“メンチを切る”というやつだ。
「クオン……久しぶりだな」とエノキドは呟くと、ポケットの中の拳をギュッと握りしめた。
クオンも静かに立ち上がり、「ああ……お前も変わらねぇな」と応える。
彼らは隣町同士の高校に所属する、いわゆる“不良”。元々不良同士の小競り合いは、次第にヒートアップし、ついには警察沙汰にまで発展した。その抗争を止めるため、両陣営のリーダーであるクオンとエノキドは、タイマンでケリをつけることを選んだ。
だが、二人とも分かっていた。「そんなことで争いは終わらない」と。ただ、彼らはそれ以外の方法を思いつくことがなかった。若さゆえの、愚直な覚悟。
沈黙が流れる。
やがて、クオンが静かに拳を構えた。エノキドはポケットに手を突っ込んだまま、トントンとその攻撃的な革靴で地を叩く。
クオンの武器は、桁外れの腕力と反射神経。一発でも食らえば、鼻骨粉砕、腹に入れば嘔吐必至。そして、軽率な攻撃は禁物。人並みならぬ動体視力で即座に見切られ、逆に一撃で沈められる。