主人がどう思いこの指示をしたかはわからないが、「捕まえろ」と言った。
それで多分次の日か、わたしはその奇妙な生き物を捕まえた。
その子は仔猫だった。
痩せていて体のそこら中におできが出来ていて、目のあたりはグニョグニョの涙目だった。痛々しい姿だった。
だいぶ弱っていたのだろう。わたしにも簡単に捕まえることが出来たのだから。野良猫としてずっと生きてきたくろは、自分自身への栄養もなく子を産んだのだと思う。この仔は生まれながらに遺伝的、環境的なハンディを負っていた。
もちろんその時、わたしたちは猫を飼う為の何の準備もしていなかった。
わたしは思った。この仔は「くろ」に託された子だと。くろ、それはこの仔を産んで死んだのだろう。それ以後くろの姿は見なかった。
わたしはスーパーで段ボール箱をもらい、それに新聞紙等を入れ「とりあえず」の彼の居場所にした。
わたしたちはその仔猫を「チロ」と名づけ、家族にした。
そんなチロは、家族になってからはさまざまなハンディを持っていたとは思えないような、活動的で生命力に溢れた猫となった。一日中、外で遊ぶようになっていた。家の庭の松の木の一番上にも軽やかに登って「ここよ」とか、自分を魅せた。
松の木にいるチロは我が家の二階のベランダと同じくらいの高さで、わたしはベランダから得意げなチロを撮った。チロは外でよく喧嘩をしてきて、傷を作っていた。また、外からバッタとか小動物を家の中に持ち込んで「見て、見て」というようにわたしの目の前で遊んでいた。彼は本当に日々を楽しんでいたように思えた。
彼を連れて病院に行ったのは、他の猫との外での喧嘩の怪我であった。結果、チロはその怪我で生命を落とした。