四月二十五日(金)
深夜、子どもを寝かしつけていた妻は起きてこなかった。仕方なく、本来は二人でやらないと難しい点滴を一人でする事にした。猫さんが大変な時に寝落ちしやがって、と心の中で毒を吐くが、仕方がない。妻は妻で疲れ切っているのだ。私がいない時には猫さんを病院に連れて行ってくれるし。
それに、猫さんに対して特別視をしているのは私だけかもしれない。温度感までは共有できないし、それを強要する事もできない。何しろ、猫さんを飼う事を決めたのは私、猫さんを救おうとしたのも私、猫さんに助けられてきたのも私なのだから。世界中が猫さんを見捨てても、私がたった一人になっても猫さんのお世話をするのだ。そして、猫さんを失った時には……。
猫さんは弱っているせいか、信じられない程じっと動かず点滴に耐えてくれた。ほとんど彼女の体を固定せずに施行できた。やればできるものだ。点滴後は回復したのか爪とぎを始める。久々にカリカリおやつを食べた。ここ数日は脱水で元気がなかっただけだろうか?
夜が明けると、昨日の元気は失われていた。食事の皿に口をつけておらず、飲水も悪い。尿は十分過ぎる程出ているが、水のお皿を口に持って行っても飲まない。時間が経つにつれ、ちゅーるやシリンジであげるご飯は順調に食べるようになった。
昼間は眠いのか、少しずつしか食べない。目がどんよりしていてだるそうだ。息子がバスで帰ってくる時間になったので、迎えに行く。その時に猫さんも抱っこして連れて行く。これは息子を猫さんに慣らし、猫さんに外の空気を吸わせる目的で行っている、病気になる前からのルーティーンだ。
彼女を抱き上げた時、その軽さを実感して心に棘が刺さったような感覚が生じる。今や3・96kgなのだ。全盛期は5・7kgだったのに。獣医師から減量を指示されて二人三脚で頑張ってきたのは遠い昔の事だった。
猫さんを家に帰し、息子と二人で大宮までお出かけをする。カフェで息子にシャーベットを食べさせた。ここのところ、猫さんばかりお世話をして、息子に構っていなかったので、少し時間がある時に息子と遊んでやろうと考えたのだ。
もうすぐ、私は耐えられない悲しみに襲われ、何も手がつかなくなるだろう。その前に、少しは父親として彼に接しなければ。猫さんは生を終えて戻って来なくなるが、息子にとっても五歳の春は永遠に戻って来ないのだ。
おもちゃ売り場を見に行こうとしたとき、電話が鳴った。妻からだった。慌てた声で、猫さんの呼吸が速くなったと言う。そこからはすぐにエスカレータを下りに乗り換え、猛スピードで降りた。
息子に分かる範囲で説明しながら、彼が転ばないよう細心の注意を払いつつ、早足で歩いた。駅で一緒に電車へ駆け込んだ息子は、文句ひとつ言わなかった。途中で楽しみを中断されて嫌だったろうに。
帰宅すると、確かに呼吸が促迫状態だったが、妻が電話して来た時よりは落ち着いているようだ。聴診器を当てて心拍を数えると180程度だった。安静時にしては少し早いか。呼吸は段々と落ち着いてきたので、病院受診はさせず、様子を見る事にした。
この日の排尿は六回。便秘は九日目だった。栄養は210キロカロリーで、水分は飲水40mlに点滴60mlで合計100mlだった。
次回更新は9月6日(日)、11時の予定です。
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