友人がニヤリと口角を上げ、僕の顔を覗き込んできた。
「隠してない」とは返すもののどこか心在らずという感じだ。それを友人が察して続け様に
「……それ、恋してるね、御幸くん」
友人のその一言に、僕は全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
彼女のために何かできることはないだろうかと考え続けていることを相談した結果がその聞き馴染みのない単語だった。
「いや、そんなんじゃないよ」
反射的に言い返す。「5つも年下の女の子に恋心を抱くなんてありえない」と自分に言い聞かせ、必死に動揺を隠そうと笑った。
「……恋をするって、どういう感じなの?」
僕は、話を変えるように彼女がいる友人に思い切って質問してみた。
「そりゃ、手を繋いだり、抱きしめたりしたいと思うし」
「エロいなー!」
周りが茶化して笑う中、僕は自分自身に問いかける。彼女に対して、そんな劣情を抱いたことは一度もない。
「まあ、色んな感情があるけどさ。一番は『この人しかいない』って思えることかな。この人がいるから頑張れる、大切にしたい。そう思える異性のことだよ」
友人の言葉を頭の中で反芻する。
大切にしたい。波瑠さんの理解者でありたい。
けれど、友人が言うような「抱きしめたい」という欲求がないのなら、やはりこれは恋心ではないのだろう。僕は自分の中でそう結論付け、無理やり納得させた。
その後もしばらく続いた友人たちの異性関係の話は、僕にとっては未知の世界だったけれど、彼らとの親密な空気の中で聞くそれは、楽しく時間はあっという間に過ぎていった。
「自分だけ幸せになろうとするな」
母の呪縛が、少しずつ、けれど確実に解けていくのを感じる。
封印していた感情がほぐれ、自分がようやく一人の『人間』として、この世界に足をついているような感覚。それは、これまでの『ただ生きるための勉強』では決して得られなかった、温かな充足感だった。