【前回の記事を読む】「乳酸菌そのもの」ではなく、菌が生み出す「代謝物」が主役──!? 研究から見えてきた、新たな免疫ケアのスタンダードとは。

第1章 腸内細菌由来情報の欠如と現代人の不調

腸活の幻想と、代活という次世代の戦略

現代人の多くが、慢性的な体調不良やメンタルの不安定さ、免疫力の低下など、原因の特定が困難な不定愁訴に悩まされている。医療機関を受診しても「異常なし」と診断され、具体的な治療法が提示されないまま、症状だけが続くという状況は決して珍しいことではない。

このような背景のもと、「腸内環境が健康を左右する」という認識が急速に広まり、いわゆる「腸活」ブームが生まれた。「食物繊維を摂ろう」「発酵食品を食べよう」「断食をしよう」「酵素ドリンクを飲もう」といった手法が、メディアや健康雑誌で連日のように紹介され、多くの人が一度は試したことがあるだろう。

しかし実際には、これらの手法によって腸内環境が本質的に変わるという科学的根拠は乏しい。特に年齢とともに腸内細菌そのものが老化し、代謝物を作る力を失っている高齢者にとって、発酵食品や乳酸菌サプリメントでは期待したような効果が得られないのが現実である。たとえ一時的な体調改善を感じても、すぐに元に戻る「揺り戻し」が起こってしまう。

私が30年以上の研究を通じて確信に至ったのは、こうした従来のアプローチとは根本的に異なる新たな概念の必要性である。それが「代活(だいかつ)」─腸内細菌や腸内環境そのものを変えようとするのではなく、腸内細菌の代謝産物を外から補完するという発想である。

これは加齢とともに弱体化した情報伝達機構を、菌を補うことなく再活性化する、これまでにない方法となりうる。本書では、この代活という新たな健康観を軸に、乳酸菌や腸内フローラ、そして代謝物の本質に迫っていく。

現代医療では解明されない身体症候群

「病院での検査では異常が認められないが、身体的不調を感じる」という訴えは、現代医療において頻繁に遭遇する現象である。このような状況において、患者は実に多様な症状を呈する。

認知機能関連では集中力低下や思考力減退。皮膚症状として皮膚炎や乾燥症状。睡眠関連障害として起床困難や睡眠の質低下。免疫機能低下の兆候として感染症への罹患頻度増加。全身症状として慢性疲労症候群様症状。精神神経症状として不安障害様症状や易刺激性などが挙げられる。

これらの症状は、明確な疾患診断基準を満たさない一方で、健康な状態とも言い難い状況を示している。私の研究経験では、このような症状群が腸内細菌由来の情報伝達物質の減少と密接に関連している可能性が高いと考えている。