プロローグ

古の時代、この世界には“サンクローサの花”という奇跡が存在していた。

それは『サンクローサの森』と呼ばれる幻の森に咲く美しい花で、その花を手にする者は“希望の叡智”を授かると言われていた。

だが、いつしかその存在は忘れ去られ、サンクローサの花も人々の前に姿を現さなくなった。

第1章 少年と花の出会い

トモは、かつて川辺であっただろう岩場に腰掛け、辺りを見渡すと、誰も見ていないことを確認して、そっとメガネを額へとずらした。すると、わずかに残る一筋の細い水面が、太陽の光に照らされてキラキラと輝き、不思議な幾何学模様を作って、トモの左目へ飛び込んできた。

「あはは! やめろよ」

トモは思わず声をあげて笑い、光の模様がダンスする様子を見ていた。耳を澄ませてみると、何かおしゃべりしているような、歌っているような、小さな声がいくつも聞こえてきた。

(ああ……母さんの声って、どんなふうだったのかなぁ)

トモは心地よさそうにその様子を眺め、物思いに耽っていると、ふいに怒鳴り声が辺りに響き渡った。

「トモ! メガネを外すなとあれほど言っただろう! 何故言いつけが守れないんだ!」

慌ててメガネを掛け直すと、トモは急いで立ち上がった。

「ごめんなさい父さん!」

謝るトモの腕を強引に掴み、父エリオットは無言で歩き出した。

「でも、どうして見てはいけないの?」

怒っている様子の父に、トモは今日こそ、その怒りの意味を聞きたいと食い下がった。

「お前が見えるというソレは、お前にしか見えていない」

何故か怒りながら、エリオットはそう吐き捨てる。みんなには見えないと言われても、トモには納得できなかった。だが、父の様子にそれ以上深くは追求できず、手を引かれ、家へと連れ帰られることにした。