【前回の記事を読む】妹を連れて2人だけで逃げてきた。何も持たず飛び出したから、水と食糧が…3日目、二人がかりで兎を追い込んで仕留めた。

第一部 草原の風

一 白昼の襲撃

(四)

リョウもシメンも泳ぎ方を知らない。集落があった水飲み場の川は、歩いて渡れるほどの水しか流れていなかった。ここでは、遥か遠くの対岸との間を、すべてのものを呑み込んでしまうかのような、圧倒的迫力で大量の水が休みなく流れていく。怖さばかりでなく、その景色の雄大さには、思わず身震いするようだった。

同じように感じたのか、馬上でシメンが見返してきたが、その頬の傷はまだ生々しく、リョウはハッとした。グクルだけは、何ごともなったかのように落ち着いていた。

武人の一人が、船着き場の役人に銭を渡し、渡河の許可を得てきた。しばらく河原に座って待っていると、下流から「ヘイヨー、ヘイヨー」という掛け声が聞こえてきた。何人もの船曳人夫たちが曳綱を肩にかけ、背中を丸めて力を込め、大きな平たい箱のような舟を上流へ引き上げてきているのだった。武人が船頭にも銭を渡しているのが見えた。

一行は、河辺の杭に繋がれた箱舟に慣れた手つきで馬や荷物を乗せていく。リョウたちもグクルと一緒に乗せられた。最後に、張を乗せた大きな箱舟は、船頭が押し出す竿で岸を離れ、黄河の水に乗って下流に流されながら対岸に近づいて行った。

見た目のゆったりとした流れとは裏腹に、思いのほか舟が速く進むので驚いたが、張が水を見ないで遠くを見ろと言ってくれ、その通りにすると怖さはなくなった。

後ろには、河岸の黄土の向こうに狭い緑地と、さっきリョウたちが下りてきた広大な赤茶けた丘がどこまでも広がっているのが見える。

その殺伐とした景色の向こうには、リョウたちが暮らした緑の草原が広がっているはずだが、舟はそこからどんどん離れて行ってしまうという思いに、胸が締め付けられた。隣のシメンも、じっと遠ざかる山々を見続けていた。