【前回記事を読む】「これからは、ずっと大好きなお家で過ごそうね」愛猫のためにできる治療はもうなかった。病院を出たが、涙は止まらなかった。
悲しみの底で見つけたもの~猫さんが生きた八十九日間の記録
四月十九日(土)
朝、多少飲水してくれたので助かった。飲水量の推定の仕方は長年の習慣で身に付けたテクニックだった。
猫さんは舌をスプーンのようにして水を掬いとる。その水を掬いとる回数を数えるのだ。かなり速い舌の動かし方をするので、慣れるまでが大変だったが、一度猫さんが水を舐めるリズムを掴んでしまえば難しくはなかった。
ピチャピチャと100回水を掬えば、17・7mlの水が皿から失われる事を把握していたので、ピチャピチャの回数を数えれば、何ml飲んだかを推定できた。
もっとも、集中して見ていないと、舌だけ動かして水を飲んでいない「空ピチャ」状態を見逃す事もあるし、考え事をしながら観察していると、数を数え損なう事もある。
昼間、部屋で寝ている。じっと横たわっている。
あまりに動かないと不安になる。呼びかけて尻尾だけでも動かしてくれると安心する。
カフェに行った帰り道やちゅーるを買いに行く途中、猫さんを救えなかった事を思うと、涙が止まらなくなる。そんな時、日傘で自分の顔を隠して歩く。
どこで間違ったのだろう? 何度自問しても答えが浮かばない。どこまで時間を遡れば猫さんを助けられたのだろう?
夜、猫さんがテーブルに上がっているのを発見する。焦げたクロワッサンのような形をして寝ている。だるそうだが、上がる元気が出たのだ。ジャンプ力が残っていたのだ。まだ残っていたのだ。
この日はカリカリご飯を食べず、ちゅーるとシリンジによる食事のみ。どうにか130キロカロリー食べてくれた。
この日は誕生日で十歳になった。人間でいうと五十六歳くらいだ。おめでとうと声をかけると彼女は虚ろな目をこちらに向けて応えてくれた。
この日をもっとハッピーな日にしてあげたかったけれど、何もできる事が思い浮かばない。
結局、排尿は四回で排便なし。水分は120mlで、点滴は獣医師の指示通り中止している。