「じゃあ、どこか、アパートだけでも借りてくれない? 大丈夫。そのあとは自分でやる。バイトして家賃払って一人でやっていくから」

〈嘘だろ、良いの? そんなこと言っちゃって! これから親がいないってこと? 生活? お金? どうするのよ! ワタシ!〉

それから。誰も何も言わなくなってしまい、私はそのままコタツに潜り込んで寝たふりをした。

〈和田事件のおしゃべりが生んだツケをこんなところで払わされるなんて〉

私はやり場のない怒りの気持ちを、和田を恨むことにして紛らわすしかなかった。

 

母さんとタエが暮らすアパートのお向かいには、これまた古い大正十四年に建てられたというアパート「寿荘」があった。大正モダンなデザインの木造二階建ての建物で、コンクリートの打ちっぱなしの広々とした玄関は、毎朝の掃き掃除で古くても清潔そうだった。

そのすぐ脇の部屋には八十代の大家のおばあちゃん、おトキさんがひとりで暮らしている。彼女の部屋には誰かが来た時の対応用に、いつでも玄関を見渡せる小窓が備えられており、おトキさんはいつでも人の出入りを把握していた。二階へ続く階段は幅が二メートルほどもある、まるで昔見た宝塚の『ベルサイユのばら』のフィナーレに出てきた大階段のようだった。

寿荘の一階は六畳の部屋が廊下を挟んで計五部屋、二階もそれぞれ両サイドに同じ間取りの六畳が三部屋ずつ、合計十一部屋で構成される昔の学生寮みたいな建物だった。

 

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