タエが連れて行ってくれた母さん達の新居は古い二階建ての粗末なアパートだった。でも、久しぶりに見た母さんは何だか少しだけ以前より幸せそうだった。

五本木の家にいた頃も、その前も、父さんと暮らしている母さんは、いつも眉間に皺を寄せてあまり口をきかない不幸そうな人だったのに、今日は私の顔を見るなりとても嬉しそうに笑った。

それからすぐに母さんは私が結構な大怪我をしていると気づき、今度はポロポロと涙をこぼしながら、戸棚から救急箱を出してきて傷を洗って来るように私に言った。

傷の手当てをするにしては何もないスカスカの、ほとんど医薬品が入っていない救急箱にぽつんと入っていた絆創膏を何枚も使って、パックリ開いた傷がくっつくように貼った。包帯は大袈裟に見えるから使いたくないけれど、絆創膏の上からきつく巻いて傷が開かないようにした。

本当は冷え込んだ身体も温めたかった。けれどここにはお風呂もなくトイレは共同、四畳の台所と八畳ほどの狭い部屋があるだけだったので、芯まで冷えた身体を熱いシャワーで温めるのはさっくりと諦めてコタツに頼ることにした。

そんな部屋で母さんとタエは暮らしていた。

どうやらたまにここへ通ってくる妻子持ちのおじさんがいて、母さんはその人に頼って生活をしているらしい。

「ちょっともう、五本木には帰れないんだよね」

そう切り出すと、母さんは私から目をそらしてコタツ布団をじっと見つめたまま

「悪いけど……。助けてくれている人がいてね。母さん、タエだけで精いっぱいなの。二人も子どもの面倒は見られないわ。無理なのよ。有香ちゃん、わかってくれない?」とすまなそうに言った。

面食らった。かなり意外だった。

てっきり母さんは「有香ちゃん本当によく来たわね!」と両手を広げて歓迎してくれると思い込んでいた。そして「大丈夫よ! 何とかなるわ! 一緒に暮らそう! ここから高校に通いなさい!」。そう言ってくれると思い込んでいた。

顔を伏せたまま上げられない母さんを追い詰めるつもりはなかったので、思わず口から出たのはこんなセリフだった。