思わず不機嫌な顔になる由記子に、五郎ちゃんが口には出さず目で、合図したのは「この次一人で来るの待ってるよ」そう言っているのだと感じたのだ。

A子が行きたかった店は、隣の店だったのだから、ドアを開けた途端「久しぶり! 元気だった?」目ざとく声を掛ける店長の、自信あり気な素振りは何処か軽率で、由記子にホステス時代を思い出させた。

夜の店では人当たりが良く、口当たりが良い男が人気なのだ。A子がイケメンを前に、気取るのも無理はないのだから、これが男と女の普通なら白ける、由記子の方が変だと言えるが、この日は由記子にとって別だったようだ。

それは五郎ちゃんとの、さっきまでの話を思い出していたからだ。A子が次の店と言った時、嫌な顔をした由記子を、五郎ちゃんは気づいたはずなのに、引き留めようとしなかった。

強引に誘うA子を見れば、何も言わない方が良いと思ったのか、それで五郎ちゃんは目で合図をしたのだ。

今更に隣に座るA子に構いもせず、誰も見ていない由記子は、五郎ちゃんとの間に何かを、期待するのか、妙な想像に浸っていたのだから……。

由記子の予想が確かなら五郎ちゃんは、由記子より一歳か二歳年下に見えた。店の客として接客すれば、それで良いはずだが五郎ちゃんは、由記子を受け止めるだろうかと、試したい思いに駆られるのだ。

客だからというだけで、五郎ちゃんを独占し話し込み、遅くまで居座ったとして五郎ちゃんは、由記子の相手をするだろうか、何かを企むような感情が、沸き起こるのを覚える由記子は、賭けというゲームを楽しんでいるのか。

早くも五郎ちゃんに会う日が訪れた。A子と飲み会に行く約束の由記子が、この日を五郎ちゃんの店に行くと決め、居酒屋の帰りを選んだ。

A子の飲み仲間と由記子三人は、まだ春先の冷たさが残るのか、夜の居酒屋でコートを脱いだ時、A子の着ていた若すぎる服装の違和感に、この後二軒目に誘われるのではと嫌な予感が、用があると由記子に言わせた。突然怒りの顔に変わるA子に背中を向け居酒屋を抜け出していた。

五郎ちゃんの店に着いたのは、予定通り遅い時間だった。明日の仕事は休みだからか、由記子に焦りはなく、そして店には四人の客が居て、忙しいのも、由記子には好都合なのだ。

一人で居ても誰も気にはしない、ここはレズビアンの店なのだ。今の由記子には誰にも邪魔されず、ゆっくり五郎ちゃんと心地よい時間が、過ぎてゆくだけなのだと、自信たっぷりに思い込んでいたのだ。

 

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