【前回の記事を読む】「悪いけど帰ってくれない?」電話1本で空気が一変…彼女は湯を沸かし、慌てて部屋を片付け始めた理由が……

花ことばを聞かせて

ふざけの続きとばかりに由記子が、彼女の胸を触った時だった。妙に躰を動かす彼女に甘えるような声、それは愛する男に対する仕草だった。

更に反応が見たくなった由記子は彼女の胸から手を離すとお腹の方へと、その時ようやく彼女の手が由記子の手を押さえた。

そして二人は何事もなかったように、話をして眠り翌日の朝には、また会う約束をしたのだから、それから由記子は夜の仕事に戻り、彼女とは会う事もなくなった。今思うのは二人の事は気まぐれだったのだと……。

何かがなければ思い出すなど、ないはずの出来事だった。何故か気になるのは彼女が、本当に結婚したのかと、確かめたい気持ちの由記子は、彼女の勤め先に電話をしてみた。

店の主人が言ったのは、とっくに辞め遠い○○町に行くと言い、婚約者と挨拶に来たと、彼女は愛する彼の元へ無事、お嫁に行ったと何度も呟く由記子は、遥か昔へ記憶が遠のいてゆくのを感じていた。

レズビアンの店に行く約束の日、A子は妙に機嫌が良かった。理由はと言えば密かに行く店を決めていたからだが、その店こそがA子が行きたい店だったのだ。

店のドアを開けたA子の後から、中を覗く由記子が真っ先に目にしたのは、スーツを美しく着こなした男装の麗人だった。カウンターには一人の男性の客が居て、すると隣に座る中年の女性が急に甘い声を出し、ぴったりと麗人の側に寄り添ったではないか。

でっぷりと太った着物姿の女性が、まさか麗人の彼女だとしたら、予想もしないほど不釣り合いに思えたのだ。

由記子が感じる勝手な夢心地が、急に冷めて行くのが分かった。想像するに由記子の予想が当たるなら、きっとママの存在は麗人のマスターにとって、お金が絡むパトロンなのかも知れない。

どうでもいい事だと麗人から目を逸らすと、由記子はカウンターの中に居る小柄で、目立たない格好をしたもう一人のに視線を移した。

カジュアルな服装に小柄で、目立たず特徴もない彼は、名を五郎と言い店の客が、ちゃん付けで呼んでいた。取りとめのない話をしていたはずが、いつの間にか由記子はカウンターから、身を乗り出して五郎ちゃんと、夢中で話してる自分に気が付いた。

確かに面白い話もあったが、見栄えもしない彼の何処に、人の心を掴む魅力があるのかと、由記子は興味を持った。隣で何故かソワソワするA子。すると由記子の耳元で言った。「近くに知ってる店があるの、行くでしょ」と。

店に来て一時間も経っていないのだ。五郎ちゃんと話をしていたい由記子が、レズビアンの店に居たいと言ったとして、A子の態度が変わるのは目に見えてる、そして職場で由記子がレズビアンだと、言いふらすに違いない。