父さんから母さんはメチャメチャにひっぱたかれていたが、私はいつもサトシとするように、母さんを殴る父さんをその時は止めなかった。いつもなら夫婦ゲンカが始まると二人で様子をうかがって、父さんの暴力がひどくなりそうだと判断すると、飛び出して、サトシは父さん、私は母さんにしがみついて仲裁をするのが恒例だった。けれどもこの日ばかりはそんな気分になれなかった。

私たちは元の家へ帰ることになり、母さんの「若い男との駆け落ち」はあっけなく終わった。この時のことを母さんはずっと根に持っていた。

「有香はなんでもかんでもしゃべっちゃうから。もう母さんはどこかへ行く時もお前のことは連れて行かないからね」

何度となくそう言われるたびに、〈母さんはいずれまた出て行くんだ。いつ出て行っちゃうんだろう?〉と考えるようになり、胸の奥をぐるぐるとこねくり回されるような、痛くて嫌な気持ちになった。確かに私は父さんに母さんの居場所をしゃべったけれど、悪いことをしたとは、ちっとも思っていない。

〈だって、あの人は私に「ワダユカ」になれなんて、そんなことを言ったのだもの〉

 

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