ちょうど世間は文化の日で、晩秋の夕暮れが迫っていた。それでもまだ、道ゆく人たちが、足を引きずって歩く少女の異変に気づくには十分な明るさだった。

目黒の五本木商店街は、祝日で出かけていた幸せそうな家族連れや、買い物袋を下げて笑顔で家へ帰る人たちで賑わっている。父さんは外まで追いかけてくるはずもないが、ここで立ち止まっていても仕方がない。どこが痛いのかわからない。ズキズキとあちらこちらが痛む。重たい足をなんとか持ち上げて一歩、一歩、ここから移動することだけを考えた。おかしな歩き方の血だらけの女子高生に、すれ違う人々は驚いたようだったが誰も声をかけてこない。

〈まあ、そりゃそうだよね〉

秋物の青いトレーナーと膝上デニムスカートという軽装の、裸足で突っ掛けたスニーカーの爪足に冷気が襲ってきた。あぁ、寒い。指先が凍りそうなのに吐く息で両手を温めようとしても全く役に立たない。

〈一銭も持たずに飛び出してきたから、どうしようか。仕方がない。とりあえず母さんとタエの所へ行こうか〉

夏休みに家を出て行った母さんと妹のタエが学芸大学の隣の駅、都立大学に住んでいることだけは知っていた。この足でも歩けば二十分くらいの距離だけれど、どこに二人が住んでいるのか詳しい場所までは知らなかった。この夏休みに母さんと妹が出て行った時、母さんが私にどこで暮らすことになるのか教えなかったことにはちょっとした理由があった。

おしゃべりな私に教えると父さんに居場所を話してしまうことを、母さんは恐れていたからだ。

 

昭和四十五年早春。母さんは三歳の私と一歳になったばかりの妹のタエを連れて、それまでの結婚生活で二度目の家出をした。兄のサトシは父さんの所へ置いたまま、和田という母さんより少し年下の男と駆け落ちした。

 

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