「てる」の死について、私はあらゆる可能性を想像した。私や平井君が知っている「てる」なら、団地に自ら火を放つはずがない。それでもあえて事実とするならば、一つ目の可能性は平井君が言ったように「はずがない」ことをしてしまうくらい精神的に追い詰められていたということだ。

住民にとっては迷惑千万だが、誰がいつそうならないともいえない。まして生活に余裕がなければ、いつ後がなくなるかもしれない恐怖と日々戦って暮らすことになる。そしてとうとう追い詰められたのだ。だからといって許されないのもわかる。

二つ目は火を放ったのが「てる」ではなく母親だった可能性。「てる」は母の意志を知って仕方なく同意した。いや、三つ目として同意していなかった可能性もある。母親が火をつけるのを必死で止めようとしたのかもしれない。

四つ目は不慮の事故だ。不注意であるかもしれないが、意図せぬ何らかの原因で火が付きあっという間に広がってしまった可能性。

本人が助けを求めていたかどうか。一つ目や二つ目の場合は、「余計なお世話」と「てる」に恨まれるかもしれない。それでもお節介だろうと一度は助けてみないとわからないと思った。まだ16、17歳くらいだ。我に返って、やっぱり生きたいと思い直してほしい。

誰かが「てる」に夢(それは変わっているかもしれないが)を思い出させ、アドバイスや助け舟が出せれば状況も変わるにちがいない。私にできることなど限られているだろうが、できることなら何でもやってあげたい。

「てる」の死を知って以来、私はこの年までずっと「てる」のことを思い出していた。夢で「てる」と家の前まで歩いたあの日の宵がリアルに蘇るのだ。

団地の階段に向かって歩き出すとき、振り返った「てる」の笑顔に私は未来のへの強い意志を感じた。

「てる」を助けたい。これが「私が空を飛ぶ理由」だと確信した。

次回更新は8月19日(水)、11時の予定です。

 

👉『私が空を飛ぶ理由』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】熱いキスをすると彼女の頬が染まり、どきどきしているのが伝わってきた。僕は激しく、優しく彼女を抱いて…

【注目記事】気が付くと既婚者の女性と2人きりで飲んでいた。記憶はないが、そのままホテルに行ったらしく…

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp