【前回の記事を読む】「社会の先生になりたい」古い団地の4階へ帰った中学2年の少女。後に同級生が知ったのは、彼女の死だった

私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~

「イエスタディ」を聞きながら

不審者にまちがわれないように周囲に目をやりながら、建物を見上げた。同じ五階建てだが、「てる」が住んでいた当時とは間取りもちがうようだ。面影はどこにもない。

平井君から電話をもらって以来、時々「てる」のことを思い出していた。クラスメイトの中にはフルネームを思い出せない人も多いが、彼女の名前だけはいつもすっと心に浮かんだ。

「私にできることはなかったか」

ただの自意識過剰と言われてもいい。中学二年生以来、彼女が亡くなるまでの三年近く、一度も会っていないし、話してもいないのだから。中学三年時、高校時代、彼女には仲のよい友だちがいただろうし、私などより相談したい相手もいたにちがいない。

わかってる。そうだろう。久しぶりに私が声をかけたり、彼女の話を聞いてあげたところで結果は何も変わらなかったのだ。いや、そうじゃない。もしかしたら何かの力になれたかもしれない。やってみなくちゃわからないじゃないか。

「私にできることはなかったか」

東京に帰る飛行機の中でも考え続けていた。