日本での再出発 江口隆哉(1900-1977)
1931年、ヴィグマンの研究所を訪れた江口隆哉は、『舞踊創作法』のなかで、モダンダンスでは「空間構成」を非常に大事にすると述べている。
日本の古典舞踊には、物語や、行事的なものを含まない舞踊はほとんど無く、空間構成だけに頼らない抽象作品が無かったからであると考察している。この空間構成という意味は、ドイツ語のゲシュタルト(Gestalt)にあたる。
当時ドイツの心理学者たちによって創始された「部分の総和は全体とは異なる」という原理が基本で人間の知覚は個別の感覚の総合からなるのではなく、全体的枠組みであるゲシュタルトのもとに成立しているという考え方である。
舞踊に当てはめれば個々の動きより全体としてとらえるという立場である。1931年渡欧し、マリー・ウィグマンの「Todesruf―死の叫び」に感銘し、彼女の研究所に入ることを決心した。その時の感想を自叙伝に述べている。
就くべき人はこの人を措いてはないと自分自身に言い聞かせたのである。ウィグマンの舞踊は、深くて大きい。
きびしさのある作品などは、日本の能のきびしさに通じるものがあるようで、公演の終わったときの感激は身ぶるいがするほど強烈であった。
1933年にドレスデンのヴィグマン学校に入学し、夏まで学んだ。そこで彼は、テクニック、即興舞踊、構成ゼスチャー、群舞、リズムを創作的に導いていく授業を受ける。
また、開かれていたアマチュアのクラスの存在に注目し、その頃盛んであった舞踊体操の研究者が集まってきたことを述べ、舞踊知識のない日本にもあれば良いとの考えを記している。
当時体操の中でも力の入った生理学、解剖学に根ざしたスウェーデン体操にくらべリズムを重視し、緊張と弛緩の原理からなるボーデの考案した自然体操は流動的なものとして人気があった。後に江口は日本女子体育大学で指導することになったのもこの時の経験からかも知れない。
*1 モデルネ モダンを表すドイツ語。
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