【前回の記事を読む】父に酒が入ると、家の空気は一変…深夜、大声で得体の知れないうわごとを叫ぶように……母と私は、理由も分からず耳を塞ぐしかなかった

第1章

高岡は言った。

「父の振る舞いが悲しくて涙がこぼれてくるんだ。でも、泣きたくても、夜だから声を出すわけにもいかなくて……。夜空を見上げると、星々は、闇に無数に輝いている。赤や黄色、それにオレンジ色の星もあるし、冷たい白く光を放つ星もある。星々は北極星を中心にめまぐるしく動いていて、その星たちから勇気をもらっているんだ。

その中には、自分と同じ辛い境遇の星もあり、それを自分の星と決めたんだよ。星は、何も言わず、あの高い天井で静かに光っている。

母も辛いけれど、いちばんかわいそうなのは父なんだ。こんなふうに父を変えてしまった戦争が、俺は憎いし、もう二度と起きてほしくない。悲しいけれど、いつかあそこに光る自分の星が手の届くところに来たら、掴んで母にプレゼントするのが夢なんだ」

夜空にまたたく星々は、何も語らず、ただずっと静かにそこに在り続ける。高岡の言葉を聞きながら、戦争という見えない傷跡が、彼や家族をどれほど追い詰めているのかを痛感した。

明らかに、幸三の家庭とは、違うと思った。いつものようにクラブ活動を終え、夜7時過ぎに自宅へ帰ると、両親は白黒のテレビのニュースを一瞬たりと目を離さず見入っていた。そこでは、安保条約の改定に反対するため、国会議事堂へ集団デモ行進をする学生たちと、それを阻止しようとする警官たちの衝突が映し出されていた。

警察官はヘルメットを被り、棍棒と盾を持ち、学生たちも白いヘルメットを被り睨み合い、その直後に角棒を振り回して、大声で喚きながら、叩き合い、押し争う光景が映し出されていた。

中学生の幸三には、安保条約改定反対闘争の理由も背景も分からず、なぜ、このような闘争と暴力が起こっているのかを理解する知識がなく、想像もできなかった。

本来、学生は大学や高校などの教育機関で学び、社会貢献をするための知識を身につけ、得た知識を持ち、社会に出て、知識を活かし、日本を発展させ、改革する使命があるはずで、一方の警察官たちは、日本の治安と国民の安全を守る役目があるはずなのに、映像はまるで正反対の行動を映し出していてどうにもおかしく思えた。

警察官が、学生を警棒で叩き殴る。「国の混乱を防ぎ、治安を維持するため」という大義を振りかざしての防衛なら、暴力も正当化され許されるのだろうか?

誤った思考や偏った方向性で国体が歪み、独裁による権力集中や専制的な政治が行われ、それに対抗する民主主義が抑制されたら、また戦争への道を歩むことになる……。

中学生の幸三でもこれは十分に理解できた。