しかし、レイス製薬はその臨床試験を二年間しか行わず、厚労省もそれを了承した上で、臨床試験データを六年要したものに改ざんし、新薬の承認を強引に行っていた。
「データが残っていたのは、奴らの手抜かりに違いない。これは千載一遇のチャンスかもしれない。……そのデータで、臨床試験を二年しか行っていないセリナオを、厚労省は分かっていながら承認し、医療現場に流通させたという不正を証明できる。
……データにはない副作用や突然死が、服用期間の長さに比例して頻発している実態とセリナオの因果関係の証明がこれからの難題だが……、それでも、薬を強制回収し、薬害救済制度での補償まで持ち込めれば、これ以上の被害を防げる」田中の表情が影を帯びる。
「もちろんそうなれば良いが、医療従事者の証言だけ取れていないのが気掛かりだ。…… 不自然なほど、誰一人まともに取り合ってくれなかった。何かの強い圧力が働いているとしか思えない」
田中の予想は当たっており、医療関係者には箝口令が敷かれていた。厚労省は既に、土橋と田中の不審な動きを一部察知していた。
「臨床試験が行われた病院の一つが幽霊病院だった。実在しない被験者をそこで膨大に作り、被験者の数を水増ししていた。……つまり、多くの医療従事者がそこで改ざんに関わっていたことになる。……改ざんされた証拠を突き付けられて、誰一人、顔色一つ変えないのは、事前に俺の接触を知っていたとしか思えない」
土橋は、躊躇や迷いを振り払うように拳を強く握り、覚悟を決める。
「仕方ない。奴らに察知されていたとしても、もうやるしかない。……こうしている間にも医療現場でセリナオが処方され続けている。……時間がない。この内容をマスコミと医師会に公表しよう。俺は国会で真相解明を求める。最低でもセリナオの強制回収を勝ち取らなければならない」