「よかったわね」
遥香の祖母に対して、僕は「はい」と答えたが、本当によかったのかはわからない。僕の当初の計画は、遥香と話して謝ることだった。今の僕には、どうすることが正解なのかわからない。遥香の家族と友好な関係を築くことがすべてなのだろうか。
手を洗い終わったようで、どたどたという足音が聞こえたかと思うと、女の子がリビングに走ってくる。そして、僕の顔を見ると、また不思議そうな顔を見せ、「だれ?」と訊ねた。
「こんにちは」
女の子の目線まで腰を下ろし挨拶をする僕に、彼女は「こんにちは!」と、またえくぼを作って元気に返した。
「お兄さん、だれ?」
「大事な話があるの。聞いてちょうだい」
顔を上げると、由紀子さんが立っていた。
「あなたの名前に、遥香の字を使って、優香(ゆうか)といいます。遥香が名付けました」
「優香……ちゃん……。素敵な名前ですね……。本当に素敵です」
目がまた、じんと熱くなってくる。
「いい? 優香、大事なことを言うから、ちゃんと聞いてね」
由紀子さんが、優香ちゃんの両肩に手を乗せてかがむ。
「この人はね、優香のおと―」
「ママの友達なんだよ」
由紀子さんの言葉を遮って、僕は言った。
由紀子さんが目を丸くしているのが、横目に見える。
「ママのお友達?」
「そう。ママのお友達。今日は用事があってここに来たんだ」
「ねえ、ママってどんな人だったの?」
優香ちゃんは目をキラキラと輝かせて言う。
「ママか、そうだな。ママはすっごく人のことを考えて行動できる、素敵な人だったよ。僕もいっぱいママに助けてもらったんだ」
「そうなんだ! ママ格好いいね!」
「そうなんだよ。すっごく格好いいんだよ!」
優香ちゃんは、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「ねえね、ママのこと好き?」
なんの屈託もない、まっすぐな笑顔で優香ちゃんは訊ねる。そんな彼女は本当に遥香によく似ている。だから、僕も正直に答えることにした。
「ママのこと、すっごく大好きだよ」
「うわあ!」優香ちゃんは嬉しそうにまた跳ねる。
僕は彼女の手を取った。すごく小さくて柔らかいが、温かみのある手だ。大切にたくさんの人の愛を受けて育っているのがよくわかる。
「優香ちゃんも、ママみたいに人のことを助けられる、格好いい大人になるんだよ」
「うん! 優香なるよ!」
優香ちゃんは、お絵かきをすると言って、走って二階に駆け上がっていった。その後ろを笑顔で、遥香の父親が追いかけていく。
次回更新は8月11日(火)、11時の予定です。
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