⚘ ⚘ ⚘
消えていなくなればいいのに――。
最初は、誰にでもある小さな子どもらしい嫉妬(しっと)心(しん)だった。
きめ細やかな色白の肌を持ち、柔らかい手触(てざわ)りの栗色の髪、ピンク色のチューリップのように生まれつき愛らしい笑みを持つ弟。恥ずかしそうに大人たちを上目遣いで見上げる様は、思わずぎゅっと抱きしめたくなるほど可愛くいじらしく、誰もが母性本能をくすぐられるのだろう。
喩えるならば、透明のガラスのコップに注がれた砂糖入りの生温かく甘ったるいミルクのような子。
それに相対して結芽(ゆめ)はといえば、年がら年中日に焼け浅黒い肌にしっかりとコシのある黒く硬い毛髪、微笑み方を知らないから悪戯(いたずら)っぽくニヤけることしかできない、恥ずかしがることが恥ずかし過ぎて逆に強面(こわもて)になる強がりな可愛げのない娘。
大人達はいつでもこの可愛らしい弟に夢中だった。年に一、二回会う親戚も、初めて会ったお店の人も、みんな同じように弟に釘付(くぎづ)けになり、時にはうっとりと見つめながら、
「色白で可愛い。女の子みたいに可愛らしいですね」
と言い、次にその横に立つ結芽をちらっと見る。当然のことながら、そんな時に結芽が容姿を褒められたことは一度もない。そして子どもながら、そんなことにはとうの昔から慣れっこだったし、むしろ大人達に気を遣われ心にもない褒め言葉で情をかけられるよりは幾分ましだった。
愛息子を褒められた母親はどうであったかというと、そんなのは簡単だ。どう見てもご満悦だ。まるで自分のとっておきの作品を絶賛されたかのごとく。あるいは、自分と自分によく似た息子とを完全に重ねてしまって、もはや母親自身がとびきり美しいと褒められているのだと感じている、そんなところだ。
確かに母は美しかった。弟と同じく色白で、陶器のようなきめ細やかな肌に薔薇(ばら)色の頬を持ち、実年齢より十歳は若く見えるので、授業参観などではよく同級生から、「お姉さん? 本当にお母さんなの?」「若いからお姉さんかと思った」などと非常に驚かれ羨ましがられたのだった。
私は一体誰に似たの?
どうして私だけ違うの?
【イチオシ記事】夫の新聞の山から「たー君へ♡ ……晴香より」という便箋を発見。今日も朝帰りの夫に〈晴香さんと一緒?〉とメールした。
【注目記事】「何だ、浮気の心配なんてないのかな?」安心した途端、妻の車に仕掛けたGPSが自宅から20キロも離れた町で止まった!
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp