【前回記事を読む】辛うじて隠れる位置にある胸のアザが憎い。削ってもえぐっても、傷が癒えるとまた浮き上がってきて…
第二章 蔦の迷宮に燃ゆる紅薔薇
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長い戦いの末に我が軍は勝利した。
「元首、ご報告申し上げます」
「なんだ」
──指揮官が、戦死したと──。
元首ディアーナが表情を変えることはなかった。生暖かい風が吹き、湿気を含んだ衣の袖(そで)が重くゆらゆらと揺れていた。
荒波のように大きくうねる癖(くせ)と、しっかりとしたコシのある長い黒髪には、生まれつき赤銅色(しゃくどういろ)の毛髪が混じり、その天命に果敢(かかん)に立ち向かい使命を果たすべく備(そな)わった、生命の底力を物語っている。
瞳の色は、左は茶褐色(ちゃかっしょく)、右は琥珀色(こはくいろ)をした双異眼 (そういがん)※。
褐色(かっしょく)の肌を持ち、高貴な女性のような儚(はかな)げな美は感じられない。
血色の良さと適度な皮脂を乗せた肌は自然の艶(つや)がありとても健康的で、それら全てがコンプレックスであった。
ルシフェルの存在自体が、ディアーナの劣等感をチリチリと、弱いながらも永く執拗(しつよう)に刺激し続けてきた。
「身柄(みがら)は?」
「焼き尽くされ何も……。ですが、生前こちらを預かっておりました」
「わかった。下がれ」
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上質な白絹(しらぎぬ)に繊細な刺繍(ししゅう)が施(ほどこ)された小さな袋。
細い紐(ひも)を通し複雑な結び目で飾られ、簡単には開かないよう閉じられている。
守り袋か。
中央には、今にも花開きそうな薔薇の蕾(つぼみ)が紅色の糸で、その周りを囲むように蔦(つた)※※が銀糸で縫われていた。
とても固くしっかりと編み込まれた細紐(ほそひも)の飾りを丁寧に解(と)いていく。こんなに複雑に結ぶ必要が?
解いていく工程とそれに要される時間は、ディアーナに平常心を取り戻させて、ひとときの安息を与えた。中には何かを丁寧に包んだ同じ白絹の布の手巾(しゅきん)があり、端がその包みの中に折り込まれている。
手巾を開き、中に収(おさ)められていたものは――。